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久々のフェラーリ勝利の背景にある
浜島裕英“元”エンジニアの功績。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2015/04/05 10:30
常勝メルセデスの2人を従え、2013年ブラジルGP以来21戦ぶりに表彰台の頂点に立ったベッテル。フェラーリにとっても同年のスペインGP以来、35戦ぶりの勝利だった。
日曜日、ついにベッテルが逆転で優勝すると……?
「ここでもフェラーリが強いのがわかったから、週末は面白い戦いになりそうだ」とロズベルグがフェラーリを意識すれば、ベッテルも「メルセデスAMGは今日、問題を抱えていたから、これが本当の実力ではないはず」と、明らかにメルセデスAMGに対抗心を燃やしていた。
そしてその戦いは土曜日以降も続き、日曜日のレースでは2番手からスタートしたベッテルが、ついにメルセデスAMGのハミルトンを逆転して、優勝。
ロズベルグが「セバスチャンのレースペースは素晴らしかったから、今後もフェラーリとの戦いになりそうだ」と勝者を素直に祝福すれば、ベッテルも「今日のメルセデスはちょっと苦戦していたけれど、彼らが最高のパッケージであることに変わりない」と敗者を称え、2週間前の舌戦はマレーシアで幕を下ろしたのである。
それにしても、なぜメルボルンで30秒もの差をメルセデスAMGにつけられていたフェラーリが、2週間後のセパンでメルセデスAMGに追いつき、逆転できたのだろうか。
メルセデスのトラブル、フェラーリのタイヤ管理。
今回のフェラーリの勝因には、いくつか幸運な点があったことは否定できない。
ハミルトンのマシンに金曜日にトラブルが起きて、マシンのセットアップが十分でなかっただけでなく、タイヤのロングランもしっかりできなかった。そのため、レース序盤にセーフティーカーが出たタイミングで、メルセデスAMGはミディアムタイヤのデグラデーション(劣化)を恐れ、2台そろってピットインさせた。
ただし、負けたロズベルグが「セパンでのフェラーリはメルセデスAMG勢をしのぐロングランペースを披露していた」と語っているように、フェラーリが暑いコンディションでのタイヤマネージメントに成功していたことも間違いない。
そしてその基礎を築いたのが、昨年までフェラーリでビークル&タイヤインタラクション・デベロップメントとして活躍していた浜島裕英である。
浜島“元”エンジニアが移籍してきたとき、フェラーリではタイヤのデータ取りはいつも後回しにされていた。例えば、セッション中にピットインしてくると、外されたタイヤは表面の温度と摩耗度合いだけを計測されてガレージの裏へ運ばれ、そのタイヤを目視しに行くのはセッション後だったという。浜島は、そのやり方を徹底的に変えた。