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30歳でマラソン日本代表に初選出。
今井正人が初代「山の神」を卒業?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNanae Suzuki
posted2015/03/14 10:35
東京マラソンを日本人最上位でゴールし、ガッツポーズする今井正人。箱根駅伝のスターは世界選手権でも輝けるか。
マラソンを走る準備が、ようやく整った。
2013年のニューヨークシティマラソンでは日本勢トップの6位、2014年の別府大分毎日マラソンでは、初めて2時間10分を切る2時間9分30秒で2位と徐々に頭角を現し、今年の東京マラソンで、一気に飛躍したのだ。
これまで大会で思うような結果が出ていないときは、先に記したように30km過ぎで失速するケースが多かった。それは、実はマラソンを走りきる体力がまだついていなかったということを表している。つまり、このところの好成績は、ようやくマラソンを走る準備ができてきたということなのだ。
山の神と言われるのも少なくなるんじゃないかな。
同時に、もう一つ浮かび上がる事実がある。
今井はこれまでも、大会に出るたびに注目され、期待を集めた。箱根駅伝での鮮烈な印象からすれば、それは当然のことだったかもしれない。
だが箱根の山上りでの快走はあるにせよ、今井はトラックでの速い持ちタイムがあったわけではない。そもそも、平地と山では求められる能力が大きく異なる。それを考えれば、箱根の活躍とそれに伴う脚光に由来するマラソンでの期待や注目の大きさは、今井にとって過酷な面もあったことだろう。自身の走りと周囲の視線のギャップに、下手をしたら、潰れていてもおかしくはなかった。東京マラソン好走のあとの、「(山の神と言われるのも)少なくなるんじゃないかな」という言葉にも、葛藤が表れていた。
それでも、今井は折れることなくついにここまでたどり着いた。
「世界で戦いたいという思いでずっと練習もしてましたし、試合も戦ってきました」
着実に地力を積み上げてきた。その事実があるからこそ、今日がある。
そして代表選出を受けて、今井はこう語っている。
「メディアの方がたくさん来られている中にいられるのが、どれだけ幸せなことなのかということを実感しています」
その言葉もまた、これまでの軌跡を考えれば、感慨深い。
多くの時間をかけてたどり着いた今だからこそ、初めての大舞台での走りが楽しみだ。