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前田遼一が語った決断の裏側。
「移籍という経験をしたかった」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byNoriko Terano
posted2015/03/04 10:45
FC東京のクラブハウスで、リラックスした表情を見せる前田遼一。J1通算137ゴールを決めているFWは、再挑戦のJ1でどんなプレーを見せるのだろうか。
「今がここを出るとき、タイミング」
――2003年シーズンから、ジュビロのエースストライカーという看板を背負ってきました。
「でも試合に出ているだけで、タイトルも獲れてないので。自分の力不足というのは常に感じていました。ポジションが安泰だと考えることもなかった。逆に代表だからとか、そういうところで起用されているんじゃないか? と疑心暗鬼に陥ることもありました。
もっともっとしのぎを削り合うような競争をしないと成長できないのに……と。もちろん、代表へ行けば厳しい競争はあるけれど、やはり日々を過ごすクラブで競い合わないと、強くはなれないから」
――慣れ親しんだ環境だからこその居心地の良さはあるけれど、“不動”と言われるポジションにいることは居心地が悪かった。新人のころは中山雅史さんや高原直泰選手という目指すべき存在があり成長を促してくれた。そして自分がその立場に立ったときに、物足りないという欲が出てきたんでしょうね。
「ジュビロには若くて良い選手がいたし、『負けられないぞ』という危機感みたいなものはあるんだけれど……。難しいですね。ただ、今がここを出るとき、タイミングなんだと移籍を決意しました」
チームの前に自分、だとダメになると思う。
――過去の前田選手のことを知らないイタリア人監督のもとで、真価が問われるわけですが、FC東京の一員として、もっとも意識していることはなんでしょうか?
「まずはチームという組織の歯車になること。チームプレーですね。そのなかで自分のプレーを出す。そこは逆転しちゃいけないと思ってます。チームあっての自分なのに、先に自分が出ていくというのは……僕は違うのかなと」
――そういう前田選手のプレースタイルは「強引さが足りない」と評されることもありますよね。
「確かに。ジュビロでもそういう風に言われることは多かったですね。でも、先に“自分”が来て、“俺が中心だ”という風になると、むしろダメになると思うんです。そんなことが出来るのは、本当のスーパースターだけ」
――メッシやC・ロナウドとは違うと。
「そうです。でも、彼らのプレーを見ていても『そうやってひとりで行っても点は獲れないな』と感じちゃうこともあります。結局FWは周りに使われて、初めてゴールができる。パスが来なければ、シュートも打てないから。得点王を獲ったときは『バンバンシュートを打ってた』と言われるけれど、あのときも“自分が”という風に考えていたわけじゃない。
いかにチームのなかで動けるかを一番意識していたし、そこで上手く動けるからシュートチャンスも生まれたんです。もちろんこれは僕の考え方であって、正解はわかりませんけど。移籍をして改めて、サッカーはひとりじゃできないんだなと強く感じています」