松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER

ミスへの寛容さと、最終日の魔物。
松山英樹の2位から優勝までの距離。 

text by

舩越園子

舩越園子Sonoko Funakoshi

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photograph byNozomu Nakajima

posted2015/02/05 10:50

ミスへの寛容さと、最終日の魔物。松山英樹の2位から優勝までの距離。<Number Web> photograph by Nozomu Nakajima

松山英樹は今季すでに3位以内に3度入り、いつ2度めの優勝を果たしてもおかしくない状態だ。

最終日を克服する手立てなど、実はないのかもしれない。

「自分の中のフィーリングを、もっと最終日のプレーで出したい。自分が出したい感覚と今の(実際の)感覚をもっと近づけられればと思うけど、そのために何をやったらいいのか。それは、まだわからない」

 わからなくても、焦らなくていい。なぜなら、誰にとっても優勝争いは魔物で、最終日最終組は麻薬なのだから。そんな魔物や麻薬をあらかじめ克服するための手立てなど、実は存在しないのかもしれないのだから――。

 ただし、勝者と敗者を分けるものは確かに存在し、その差が待宵月を真ん丸い満月へ導いてくれる。

 ケプカも今季開幕戦のフライズコム・オープンでは満月をつかみ損ね、悔し涙を飲んだ。「あの大会の最終日、誰だったか覚えていないけど、一緒の組の誰かが出だしでいきなりチップインを決めたんだ」

 ケプカはその衝撃に感覚を狂わされ、最終日を3位で迎えながら8位に甘んじた。

 そして、この日は松山が出だしでチップイン・イーグルを決め、ケプカをいきなり2打も突き放した。単独首位でスタートしたマーチン・レアード、早々に追撃をかけ始めた松山。そのときケプカは最終組の3人の中で、優勝から一番遠い選手に見えていた。

「だからと言って、フラストレーションが溜まったとか、辛かったとか、そういうカリカリしたハードな感じではなかったんだ。ただ、我慢しなきゃいけない、なんとかバック9まで踏みとどまらなければいけないと自分に言い聞かせた」

「やっぱり勝ちたい。どこにいっても通用するゴルフを」

 求めすぎず、頑張りすぎず、踏みとどまっていたフロント9のケプカは、寛大な心でミスを許容しながら好機を待つ「ほど良いケプカ」だった。そして、到来した好機は決して逃がさなかった。

「イーグルを奪った15番。そして16番、17番。ここぞという大事な場面で、これぞというハイクオリティなショットがほんの数打、打てさえすれば、それが分岐点になる」

 その「ほんの数打」が待宵月を満月に仕上げてくれる。「大事なところで、まだまだダメだな」と振り返ったこの日の松山は、その「ほんの数打」を打つべきときに打つことができず、だから彼は満月になり損ない、一歩手前の待宵月に留まった。

「やっぱり勝ちたい。どこに行っても通用するゴルフをしたい」

 その気持ち、その渇望があれば、松山の待宵月も、いつか必ず満月になる。モノの本によれば、「待宵」は「満月を楽しみに待つ」の意。待宵月は別名「幾望(きぼう)」とも呼ばれ、「幾」は「近い」の意味を持つのだそうだ。

 今週、松山は次戦のファーマーズインシュランス・オープンに挑む。トーリーパインズの夜空に、松山の真ん丸い満月は輝くだろうか――。

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