濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
日本大会メインを飾ったKO劇に思う、
なぜオクタゴンは魅力的なのか。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2014/09/27 10:40
“魅せる”打ち合いを繰り広げたマーク・ハント(右)とロイ・ネルソン。勝利したハントは「今日は2歳になる娘の誕生日なんだ、おめでとう」とインタビューに答えた。
追撃のパウンドを打たないという美学。
結果、ハントが先に当てた。ネルソンが頭を下げたところに右アッパー一閃。前のめりに倒れ込むネルソンに、ハントは追撃のパウンド(グラウンドでのパンチ)を打たなかった。KOを確信していたからだろうが、もしかすると寝技にいくのが億劫だったのかもしれない。もちろんハントも寝技の練習を充分に積んでいるのだが、「格闘技は殴って倒せばそれで終わりだろ」とでも言いたげな彼の闘いぶりを見ていると、そう思いたくなってくるのだ。
ハントは40歳。K-1 GPで優勝してから13年が経っている。MMAではあっさり敗れることも少なくなかった。それでも、今まだ世界最高峰の戦場で存在感を示しているのだから不思議だ。彼の息の長さは、“身体能力”や“モチベーション”といった要素だけでは説明がつかない。本人も「闘うのが好きだから」としか言えないのではないか。
UFCは一つの勝利、一つの敗北がファイターの人生を大きく左右するシビアな舞台だ。だが勝ち続け、観客を熱狂させ続ける限り、個性は最大限許容される。“悪童”がいても“変人”がいても構わないし、お腹の脂肪がパワーを生み出すのなら、それはそれでいい。過酷で、同時にカラフル。だから世界中のファンがオクタゴンに魅了されるのである。