プロ野球亭日乗BACK NUMBER
藤浪晋太郎の課題は「投手の打席」。
巨人との頂上決戦で阪神が失った物。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/08/29 16:30
1年目の昨年、10勝6敗防御率2.75という数字を残した藤浪晋太郎だが、今年はここまで8勝7敗防御率3.67と苦しんでいる。
藤浪のバント失敗に思い出す、大投手のエピソード。
そしてこの日の藤浪は、打席でも試合の流れを決めるミスを犯している。
いきなり4点のビハインドを背負うことになった直後の3回の攻撃だ。
この回、先頭の梅野隆太郎が左前安打で出塁して阪神は反撃のチャンスをつかんでいた。ところがここで打席に立った藤浪がバントを失敗して送りきれず、続く1番上本博紀の二ゴロが併殺となってマウンドの澤村をリズムに乗せることになった。
メジャーの取材でこんな光景に出会ったことがある。確か2004年のことだったと記憶する。まだ選手がほとんど来ていないミニッツメイド・パークのベンチ裏の打撃ケージで、当時のヒューストン・アストロズのエース、ロイ・オズワルトが1時間以上もバントの練習をしていた。前日、先発した試合で送りバントを失敗。その試合は勝ち投手になったのだが、それでもその失敗を受けて早出のバント練習に汗を流していたのである。
「昨日は勝てたからいいけど、これができるかできないかが、勝負を決めることがある。だから疎かにできないんだ」
そうしてオズワルトはその年、20勝をマークした。投手であろうとただ投げるだけではない。9人目の打者として、何ができるのか。その意識があるかないかは、結果的にマウンドにも跳ね返ってくる。その自覚があるか、ないかということだ。
この試合で藤浪は、投手の澤村に打たれ、そして自分の打席ではバント失敗で澤村を助けてしまった。これは、ただ単にこの試合の勝ち負けだけに止まらない、ということもしっかりと自覚しなければならないだろう。
昨年までの安定感を失った巨人が望む完投投手。
今年の巨人に、昨年までの盤石の強さはない。特に投手陣はエース格だった菅野智之が故障で戦線を離れ、ベテランの内海哲也と杉内俊哉にも、これまでのような信頼感がない。その上、第2戦で露呈したようにここ数年の強さを支えてきたリリーフ陣も、安定感にかけているのが現状なのだ。
その中で原監督が願うのは、1人でも2人でも完投能力のある投手が出てきてくれることなのである。
「今日に関しては見事。本人がさらに飛躍する1勝になってくれればいい」
原監督が語るように、これで諸手を上げて澤村復活とは言えないが、それでも一つのきっかけになったのは確かである。