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法廷に舞台を移した“清武の乱”。
巨人お家騒動は「こどものけんか」? 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byKyodo News

posted2014/06/13 10:50

法廷に舞台を移した“清武の乱”。巨人お家騒動は「こどものけんか」?<Number Web> photograph by Kyodo News

裁判では、巨人側が清武氏に1億円の損害賠償を求め、清武氏側が巨人と渡辺氏に6000万円の損害賠償を求めている。

唯一の「失言」にも清武氏側の追及はなく……。

 渡辺会長は、「もし会見をしたら、読売新聞社と全面戦争になるんだから」と会見当日の電話で発言したことを清武氏側の弁護人に指摘されると、「僕と読売は一体ですから」と発言。その瞬間、法廷にどよめきがわき起こった。

 ただ、唯一渡辺会長が口を滑らせたともとれたこの場面で、清武氏側の弁護士は突っ込みきれずに「あっ、一体なんですか?」と拍子抜けするような質問の繰り返し。それに対して「一体的な関係です。この訴訟においては」と即座に発言を修正してみせたところは、おぼつかない足取りとは裏腹に、頭の回転の早さを見せつける場面だった。

 読売新聞グループの最高権力者を法廷まで引っ張りだしたにも拘わらず、結局、清武氏側はほとんど追いつめることができないままに終わってしまった。

“正義”の拠りどころはどうにも足元が怪しい。

 一方、この渡辺会長の次に証言台に立った清武氏は、苦戦を強いられた。

 実は騒動勃発から、清武氏は渡辺会長、桃井社長らとの電話や会話を盗み録りして、音声データとして保存。その他にも一連の経緯や、当事者間の会話の内容などをデータファイルとして残して、それをシンガポール在住の清武氏の知人女性(現夫人)のパソコンに保存していた。

 しかしシンガポールには隠滅される可能性のある証拠を強制的に保全する「アントンピラ命令」という証拠保全措置法があり、それを利用して読売側が根こそぎ入手してしまっていたのである。

 その結果、渡辺氏との電話で話す前後には「どうせおれはクビだから」「どうだ! やったぞ」と発言。「読売と全面戦争になるぞ」など清武氏側が「恫喝された」と主張する渡辺会長のセリフを、明らかに清武氏が意図的に引き出そうとしていたことも同時に記録されてしまっていた。

 また「断片的に読み上げるのは趣旨に反する」と清武氏が激しく抗議をしたが、記者会見後に知人女性に「会見見た? ファンの皆さん、のところで泣いた。うまいだろ?」と電話で話したことなどもメモとして残っていることも明らかにされてしまったのである。

 解任を巡っては球団監査役への就任や優勝功労金などの要求を口にしたことも暴露され、「ただコーチを守りたいという思いのみだった」という清武氏の“正義”の拠りどころは、どうにも足下が揺らぎだしている。

【次ページ】 “反逆者”を許さない巨人の徹底姿勢の恐ろしさ。

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