野球善哉BACK NUMBER
腕の振りが戻り、「第一段階」突破。
菊池雄星、高3夏以来の甲子園勝利。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/06/03 10:30
6月2日時点で、菊池雄星は2勝6敗。しかし防御率は4.14とそこまで悪いわけではなく、さらに復調してくれば順調に白星はついてくるはずだが、果たして。
キャンプで増えた個人練習をウェイトにあてたが……。
もともと考え込んでしまうタイプの菊池は、状態が悪ければ悪いほど、頭で野球をしてしまう。おそらく、昨季ほど腕が振れていないと不安に感じた菊池は、頭で考えることが先行し、純粋にボールを投げこむということを忘れてしまっていたのだ。
その一つが、彼をひじの位置を下げるという選択に向かわせたのだろう。5月3日の千葉ロッテ戦の2日前に「状態がいい時というのは、何も考えないで理想のことができている。でも悪いときは、良い時のことをやろうと考えちゃうからよくないんですよね。分かっているんですけど、そうなってしまう」と苦笑していた。
そもそもの遠因は、キャンプの過ごし方にあったのだろうと思う。
今年の春季キャンプ、西武は伊原春樹新監督の方針で、全体練習の時間が大きく削られ、個人練習の時間が増えたのだという。自主性を尊重することで、選手を大人として認める方針といえる。投手については球数の制限もなく、自分で全てをコントロールすることができた。
そこで菊池は個人練習の時間をウェイトにあてた。
「以前までは全体練習で身体が疲れてて、あまり自分の時間を作ってウェイトをしようと思わなかったんですよ。でも、全体が短くなった分、ウェイトルームに行こうという気持ちが増えました。それはみんな同じだと思います。キャンプのウェイトルームは、いつもより倍ぐらいの人がいましたから」
しかし結果は、投げ込み量が不足したままに実戦を迎えてしまうというものだった。
開幕に合わせすぎて、夏以降に失速するというケース。
とはいえ、この調整法が間違っているというわけではないと思う。日本のキャンプは多くの場合、自主トレから体を追い込み、キャンプで投げ込みを多くして開幕に合わせるという方式をとっている。開幕時に100%近い力を出すことができる一方で、シーズン終盤にガス欠を迎えるケースも少なくない。新人や売り出し中の若手選手が、シーズン序盤は良くてもやがてパフォーマンスを落としていくのは、その影響だろう。
何より昨季の菊池がまさにそのパターンで、「アピールの年にする」とキャンプから追い込み、多くの投げ込みをして開幕に合わせた。その結果として7月までに9勝を挙げることができたが、夏に身体が悲鳴を上げた。オーバーワークに気づかず、年頭から走り続けたことが故障につながった。それは、菊池自身の反省の中の「自分の身体の声を聞こうと思っています」という言葉に表れている。