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『レッドブル・エアレース』が復活!
ニッポンのエース・室屋義秀の挑戦。 

text by

田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

PROFILE

photograph bySebastian Marko, Jorg Mitter, Predrag Vuckovic/ Red Bull Content Pool

posted2014/04/11 10:40

『レッドブル・エアレース』が復活!ニッポンのエース・室屋義秀の挑戦。<Number Web> photograph by Sebastian Marko, Jorg Mitter, Predrag Vuckovic/ Red Bull Content Pool

再開されたレッドブル・エアレース。アブダビ大会でタイムアタックを行なう室屋義秀の雄姿。

室屋の無念と、ボノムが起こしたサプライズ。

 しかし現実は残酷だった。翌3月1日に行なわれた決勝トーナメント1回戦、室屋はベスト8進出をかけて、オーストリアのハンネス・アルヒと対戦。59秒813と、予選よりもコンマ04秒近くタイムを縮めたものの、最新型の機体を駆るハンネスに2秒以上の差を付けられてしまう。

 それでも全体で8位以内に入るタイムを記録していれば、敗者復活枠で次のラウンドに進めるはずだったが、室屋はわずかに0.24秒及ばず、涙をのむ形になった。

 エンジンとプロペラはワンメークになったにせよ、残る機体の差はいかんともし難いのか……。

 頭の中で、再び疑念がよぎり始める。事実、スーパー8と呼ばれる8強に残ったパイロットのうち、旧型の機体を使用していたのは2名のみ。そこからさらに4強に食い込み、決勝に挑んだパイロットの中でも、型落ちの機体で飛んでいたのはイギリス人のボノムだけだった。

アブダビ大会最大のサプライズ、勃発!

「クリアー・イントゥ・ザ・トラック(コース侵入OK)」

「スモーク・オン(白煙を噴出せよ)」 

 午後5時22分、4強による決勝戦がついに幕を開ける。

 直前の予想では、一番時計を記録していたカナダ人の若手パイロット、ピート・マクラウド(56秒710)と、室屋を破ったハンネス・アルヒ(56秒869)の一騎打ちになるだろうと見られていた。残る2名のパイロット(ポール・ボノムと、ニュージーランド人のマット・ホール)は、58秒台前半のタイムに留まっていたからである。

 おそらく一発逆転を狙って、コースを攻めすぎたのだろう。案の定、最初にコースに躍り出たマット・ホールは、パイロンに接触して失格処分になってしまう。対照的にハンネス・アルヒは着実にタイムを詰めて56秒766を記録し、優勝争いで優位に立ったかに思われた。

 ところが、ここでアブダビ大会最大のサプライズが訪れる。

 決勝進出の時点では3番手に留まっていたボノムが、自己ベストを一気に1.5秒も更新し、56秒439というスーパーラップを叩き出したのである。ガッツポーズをするチームスタッフの姿が大型モニターに映し出され、イギリス人のプレスから拍手が沸く。2010年度の年間チャンピオンは、土壇場で驚異的な勝負強さを発揮してみせた。

 しかし、勝負はまだ決したわけではない。最後にはピート・マクラウドが控えている。順当にタイムを伸ばせば、マクラウドがボノムを上回ることは十分に可能なはずだった。

 プレスセンターのどよめきも冷めやらぬまま、マクラウドのタイムアタックが始まる。だがなんとしたことか、経験の浅いマクラウドはプレッシャーに押しつぶされ、自らのベストタイムに1秒近く及ばぬ57秒057に終わる。新生レッドブル・エアレースの第1回大会は、かくしてボノムが制する形で決着した。

【次ページ】 アブダビで得た確かな手応えと、室屋の新たな決意。

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