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『レッドブル・エアレース』が復活!
ニッポンのエース・室屋義秀の挑戦。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph bySebastian Marko, Jorg Mitter, Predrag Vuckovic/ Red Bull Content Pool
posted2014/04/11 10:40
再開されたレッドブル・エアレース。アブダビ大会でタイムアタックを行なう室屋義秀の雄姿。
「義」の文字に刻まれた思い。
ただし室屋を突き動かしているのは、個人的な憧れや開放感だけではない。彼がエアレースで使用している機体の尾翼には、「義」の文字が大きくあしらわれている。義秀という名前から一字を取ったものだが、日本中の期待を背負っているという自覚は強い。
「いろんな意味があるとは思いますけれど、やはり『義』の漢字に込められた意味は自分の人生のコンセプトでもあるので、それは大事にしていきたい。日本代表としてレースに参加させてもらっている意識は強いですね。自分の活動を通じて、こういう世界で真剣にエアレースに取り組んでいるアスリートがいることや、空の楽しみをより多くの人に味わってもらえたら嬉しいです」
3年間の中断と、変更されたレギュレーションの意味。
アブダビ大会に並々ならぬ意欲を燃やしているのは、大会の主催者も同様だ。
レッドブル・エアレースの歴史は、2003年にまで遡る。以降、世界各国を転戦しながら行なわれる選手権シリーズは多くの人気を集めていたものの、2011年に一旦中止。今回は4年ぶりの開催となるからだ。
当初、1年間とされていた中断期間がかくも長引いた理由は、レギュレーションの大幅な変更を実施したことにある。長年、レッドブル・エアレースを取材してきたあるジャーナリストは、次のように解説してくれた。
「前回までの選手権では、各チームが独自にエンジンを開発することが認められていたんだ。
でも、そのために各チームが使用する機材の差が開きすぎ、コースによっては10秒近い差がつくようになっていた。
しかも2010年のシリーズでは、バランスを崩した機体が水面に着水するトラブルも起きている。むろん命に関わるような事故ではなかったにせよ、主催者側が安全性の確保と、レースを再び活性化するために、かなり頭を悩ませたのは間違いないだろう」
結果、今年から再開された選手権では、各チームにワンメーク(統一規格)のエンジンとプロペラが供給されるようになっただけでなく、飛行中にパイロットにかかる重力Gの上限が12Gから10Gに抑制。さらにはパイロン(水上に設置された、風船式のコースマーカー)への接触は、ペナルティタイムの加算ではなく、一発で失格扱いにするといったような、様々な措置が講じられている。
より安全な環境を確保しつつ、各チームの実力差を近づけて、レースを活性化していく。主催者側の意図は、十分に理解できる。
しかし、ここで一つの疑問が湧く。新たなレギュレーションの導入は、競技そのものの醍醐味や迫力を削ぐことにつながらないのか。言葉を変えるなら、生まれ変わったレッドブル・エアレースの一番の魅力は、どこにあるのだろうか?