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中学2年、川崎がイチローを知った日。
「大体おかしいじゃん、カタカナだし」
text by
川崎宗則Munenori Kawasaki
photograph byMami Yamada
posted2014/03/26 16:30
川崎宗則が昨年の7月11日にヒーローインタビューで発した「See you tomorrow」という言葉は、あまりにキュートだと世界中にファンを生んだ。
イチローにはなれるかもしれない。
あれだけ細くて、誰よりも活躍できている。おれは小さい体だからと、どこかであきらめてる。こんなんじゃ、ダメだって、勇気をもらった。
今のおれにはそんなこと、絶対に言えないけど、何も知らない中学生だったおれは、イチローにできるんだからおれにもできるって、思った。見た目だけの判断だったのかもしれない。あんなに体の細いイチローにできる。体のでかいピッチャーを倒せる。ヒットや ホームランをいっぱい打てる。
まるで、スーパーマンじゃないか。
昼には普通のサラリーマンなのに、いきなり夜はとんでもなく強い。イチロー選手を見たとき、そう思った。こんな細い体で打てるわけがないのに、なぜ誰よりも打てているんだと、イチロー選手を見たとき、本当にそう思った。
おれもスーパーマンになりたい。おれ、体ちっちゃいけど、イチローみたいになれるかもしれない。おれの脳みそがそう言ってた。清原みたいにはなれない。でも、イチローにはなれるかもしれない。おれの脳みそがそう決めたんだ。イチロー選手が打てるんだから、おれも打てるかもしれない。本気で思ったのはおれだけじゃないと思う。おれはそういういっぱいいた野球少年のうちの一人だった。
1996年4月16日、鹿児島の鴨池球場で見た「光」。
イチロー選手のことが気になって、気になって、初めて自分のお小遣いで本を買った。それが『イチローのすべて』という本だった。夢中になって読んだ。中学2年生のときのことだった。
そんなとき、鹿児島にイチロー選手が来た。
あれは中学3年生のとき。
1996年4月16日、鹿児島の鴨池球場。ロッテ対オリックスの試合があると聞いて、お母ちゃんにチケットを買ってもらって、友だちと3人で行った。
まず、シートノックを見て、ぶったまげた。
肩、強えなぁ。
試合中、ライトライナーを滑り込みながら捕って、そのままビューンって投げたのも見た。試合が終わって、ファンに追い掛けられたのも見た。ファンがグラウンドに降りてって、イチロー選手のところへ行ったら、イチロー選手、ピューンって逃げた。それもビックリするほど速かった。
ホームランも打った。
おれはちょうど一塁側ベンチのすぐ上の席に座っていた。ヒット2本と、ホームラン。ヒットは伊良部秀輝投手、ホームランは成本年秀投手から打ったらしい。でもピッチャーが誰かなんて、関係なかった。イチロー選手は細い体をゴムみたいにしならせて、右中間へ特大のホームランを打ったんだ。
イチロー選手はおれにとっての宇宙じゃなかった。
もっと、もっと近くに見えた、光だった。
文藝春秋BOOKS
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