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メッシも困惑のバロンドール受賞。
“バルサの一人勝ち”が意味するもの。 

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中嶋亨

中嶋亨Toru Nakajima

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posted2011/01/13 10:30

メッシも困惑のバロンドール受賞。“バルサの一人勝ち”が意味するもの。<Number Web> photograph by Getty Images

FIFAバロンドール候補者の最終ノミネートに選ばれたイニエスタ、メッシ、シャビ

「これはバルサのカンテラが勝ち取った賞」とシャビ。

 だが、シャビとイニエスタはそれぞれ次のように語る。

「誰が選ばれてもおかしくなかった。レオ(メッシ)は相応しいし、これはバルサのカンテラが勝ち取った賞とも言える。また来年、チャンスがあるかもしれない。これからも変わらずに希望を持って日々の仕事に取り組んでいくよ。もし受賞していても自分は何も変わらなかっただろうし、もちろん、受賞しなくても同じだ」(シャビ)

「レオが選ばれたのだから、彼が受賞するのに相応しかったということ。残念だとは思わない。ここにいるだけで誇りに思えるし、勝ち取ったのはチームメイトのメッシなんだから。また受賞するチャンスはある。僕らにできることは良いプレーをするよう挑戦することだけ。選ばれるかどうかは僕らにはどうしようもないことだからね」(イニエスタ)

 2人の言葉は模範的だと言えるだろう。仲間を称え、自分たちができることに集中する。優等生の言葉だ。こういう言葉は面白みがなく、不自然に聞こえなくもない。

ポジションを考慮しないバロンドールの限界が露呈した。

 とはいえ、2人の言葉から嘘は感じ取れない。それはシャビとイニエスタがバロンドールという賞の限界を理解しているからだ。

 シャビは自分がノミネートされた際にこう語っていた。

「ポジション別に選手を選ぶというのならわかる。でも比べようのない選手を比べて、たった一人の選手を選ぶことには無理がある。メッシは彼のポジションで史上最高の選手だ。あんな選手は今までいなかった。でも、CBとしてプジョルに勝つことはできない。FIFAベストイレブンに選ばれたことの方が自分にとっては満足できることだね」

 W杯優勝を成し遂げ、その中心として文句のつけようのない活躍をしたシャビがバロンドールを逃したことで、彼は歴代の“選ばれざる偉大な選手たち”の仲間入りを果たしたとマルカ紙は伝えている。バレージ、マルディーニ、ベルカンプ、アンリ、ロマーリオ、ラウドルップ、そしてラウール……。この中にシャビも加わったというのだ。だが、シャビには自身が語ったように次のチャンスが残されている。それはイニエスタも同じだ。

バルサに育てられた3人がノミネートされたことに注目すべき。

 そして今回のバロンドールでより注目されるべきことは、スペイン人がバロンドールを獲得できなかったということよりも、3人の選手が同じ育成哲学の下で育ってきた選手であるということではないだろうか。

 最優秀監督賞にノミネートされたスペイン代表監督デル・ボスケは授賞式前にこう語っている。

「ここには私を含めて5人(グアルディオラ、シャビ、イニエスタ、メッシ)のカンテラ育ちがいる。私たちは育成に携わる人々によって育てられた。そこから言えることは、カンテラを大事にし、カンテラを信じるべきだということ。私はバルセロナのカンテラを築くのに人生を賭けたオリオル・トルト(1929年生まれ1999年没。選手育成のための寮である“マシア”創設に尽力し、バルセロナのスカウトとしてシャビやイニエスタを始めとして多くの選手を発掘し育てた)の事を人々に思いだしてもらいたい。彼のようにカンテラを支える人々のおかげで、バルセロナ、そしてスペインのサッカーはこの日を迎えることができたのだ」

【次ページ】 シャビとイニエスタはカンテラの最高傑作である。

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