フットボール“新語録”BACK NUMBER
「サイドに開いた選手は捨てろ」!?
風間八宏監督が唱える守備の新常識。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byKeiji Ishikawa
posted2014/02/17 10:40
今季はリーグ戦に加え、ACLも戦うことになった川崎フロンターレ・風間八宏監督。同組には増田誓志の所属する蔚山現代、小野伸二のいるウェスタン・シドニー・ワンダラーズなど強豪が揃う。
「それほど危険でない相手がサイドに開いたら、『守備において、捨てていい選手が1人増えた』と考えます」
風間八宏(川崎フロンターレ監督)
以前からひとつ気になっていた「戦術の常識」がある。
攻撃の際「サイドアタッカーがワイドに張り出して、相手のDFラインを横に広げる」というセオリーだ。
一般的に、相手が守備を整えた“待ち伏せ状態”になると、簡単には崩せなくなる。それを打開するために利用されるのが、上述のやり方だ。攻撃側のサイドアタッカーが外に張り出した位置にポジションを取ると、相手のサイドバックの注意を引きつけられる。すると相手のDFラインは横方向に引き延ばされ、守備ブロックの隙間が広がり、そこに入り込む余地が生まれる……という考え方だ。
日本代表のザッケローニ監督は、この理論の実践者である。
サイドハーフの香川真司と岡崎慎司に対して、攻撃のスタート時にそれぞれ左右に広がることを求めている。チームの攻撃に幅を持たせるためだ。ただし、香川と岡崎はドリブルで縦に勝負するタイプではないため、流れの中で中央に入ったままになり、ザッケローニ監督がベンチから声を張り上げて注意する……というのがお馴染みのシーンとなっている。
クライフが提唱したセオリーが、形骸化している?
ACミランの新監督に就任したセードルフも、サイドアタッカーがワイドに張り出すことを求める指揮官だ。本田圭佑はカリアリ戦とトリノ戦で右MFに起用されたとき、監督からの要求を意識してプレーしていた。
「守備で狭く、攻撃は広く」。ヨハン・クライフ(もしくはオランダサッカーの指導者たち)が提唱したこのセオリーは、もはや戦術のイロハのイだ。
ただし、理論はシンプルであるほど理解しやすいが、伝わるうちに元々の本質が忘れられ、形骸化してしまうことがよくある。「攻撃は広く」に関しても、サッカー自体の進化もあって、誤解を招きかねない“過去の常識”になりつつあるのではないだろうか。