ソチ五輪EXPRESSBACK NUMBER
「龍一君の手」が決めたペアの縁。
高橋成美&木原龍一、奇跡の1年。
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byShinya Mano/JMPA
posted2014/02/12 12:20
団体戦の直後、「60点くらいの出来です。もっとちゃんとできるのに、本番で力を出し切れないのは、まだまだということです」とコメントし、次回の五輪挑戦に意欲を新たにしていた木原龍一。
シングルと大きく異なるペアの競技内容に困惑。
2人はすぐにアメリカ・デトロイトに拠点を移しハードな練習が始まった。いくら高橋が体重30kg台の小柄な体型だといっても、持ち上げて演技をするというのは重労働だ。
「もう毎日、全身が筋肉痛でボロボロでした」と木原。
ペアにはシングルに無い技が多い。まずは男性が女性を持ち上げる「リフト」、女性を真上に投げてからキャッチする「ツイスト」、女性を投げてジャンプをアシストする「スロージャンプ」、女性の手を持って回転させる「デススパイラル」、一緒にスピンする「ペアスピン」。完全に違う競技といって良いくらいの技の数々に、木原は困惑した。
「最初のうちは、人を持ち上げたり、投げて飛ばしたりするのが怖かった。なかなか思い切り投げられず、自分との戦いでした」
ペアらしい形になったのは7月。日本のアイスショーでショートプログラムを披露し、初めて人前で滑る緊張感も味わった。
「木原君がペアを組んでくれて、ものすごく嬉しかったです。一緒に滑っても気が合うし、楽しいし、今があってよかった。それに緊張した中で2人の息が合うことも分かりました」
トランとの国籍問題を抱えていた時期には見せなかった、晴れやかな高橋の笑顔があった。
ソチ五輪出場を逃し、無念の涙を流したことも。
最初の難関は9月のネーベルホルン杯だった。この五輪予選会で、4枠のペア出場枠を獲得しなければならない。
「試合の1週間前に、やっとショートもフリーも曲を通せるようになった、という感じ」と木原。健闘はしたものの、ジャンプミスもあり、選考枠の5番目となった。
五輪出場を逃したと分かった瞬間、木原と高橋は「ああ」と言って天を仰ぐ。高橋は涙をこらえて言った。
「点数を見れば、この半年かけてやってきたことは全然無駄じゃないと思います。この調子で頑張って、グランプリシリーズや世界選手権で活躍したい。そして何より、助け合いながら頑張るパートナーがいることが幸せです」
木原もすぐに気を取り直し、こう続けた。
「いつもの練習通りの演技と思ったが、うまく行かない時もある。1年で五輪に出ようというのが甘かったです。でも五輪が無くなるわけじゃないので、また目指したい。まずは1戦1戦しっかり成長したい」