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マドリーが過激派サポーターを追放。
ゴール裏は、政治闘争の場ではない!
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2013/12/12 10:30
サンティアゴ・ベルナベウの南スタンドに陣取る「ウルトラス・スル」。しかし彼らが排除されたことによって、試合中の応援の掛け声はほとんど聞かれなくなった。
スペインのスタジアムは比較的安全だと思う。どこへ行っても親に手を引かれた子供や老夫婦を見かける。ある町では場違いに上品な中年女性だけのグループに驚いたこともある。
ただしゴール裏は別世界。たいていのスタジアムにおいて暴力的な若者の一団が陣取っており、非常に荒々しい。
最近マドリーはそんな集団ウルトラス・スルをサンティアゴ・ベルナベウから排除することを決めた。
ウルトラス・スルは'80年初頭に結成されたスペインを代表する過激派サポーターグループで、過去何度もトラブルを起こしている。スタジアム内に関するもので最も有名なのは、おそらく'98年4月1日のCL準決勝ボルシア・ドルトムント戦キックオフ前に起こしたゴール倒壊事件だろう。選手の入場とともにゴール裏フェンスに押し寄せ、これを破壊したため、支えを失ったゴールまでが倒壊。おかげでキックオフが1時間15分も遅れた。スタジアム外での事件は枚挙に暇がないが、広く報じられたのは新聞社のカメラマンに襲いかかった'02年の一件である。
頭痛の種であり、応援に欠かせない存在であり。
クラブにとって、こうしたグループが頭痛の種であるのは間違いない。なにしろ事件を起こすだけでなく、後述する政治的イデオロギーを理由に、クラブ運営に介入したりもするのだ。たとえば昨季の途中セルタが元代表サルバ・バイェスタのアシスタントコーチ就任を急遽キャンセルしたのは、サルバの右寄りの思想を良しとしないサポーター集団セルターラスの圧力があったからだとされている。
ところが伝統的に、クラブ側は毅然とした態度で対処しようとしない。スタジアムへの入場を禁止するどころか、むしろ席を与えさえしている。
人種差別や暴力による紛争解決に反対する人権擁護団体『Movimiento contra la Intolerancia』(不寛容反対運動)の会長エステバン・イバーラはいう。
「クラブの役員たちはそうした集団のリーダーと手を結ぶ方針をとってきました。チームの応援に欠かせない存在だからと」