リーガ・エスパニョーラ最前線BACK NUMBER
マドリーが過激派サポーターを追放。
ゴール裏は、政治闘争の場ではない!
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2013/12/12 10:30
サンティアゴ・ベルナベウの南スタンドに陣取る「ウルトラス・スル」。しかし彼らが排除されたことによって、試合中の応援の掛け声はほとんど聞かれなくなった。
シーズンシートを与えるなど、共存を選ぶチームも。
くだんのゴール倒壊事件時の会長ロレンソ・サンスは、遠征に帯同するための費用を自分たちで賄えるようにと、毎年ウルトラス・スルに250席のシーズンシートを与える習慣を作った。グループのリーダーはこれをシーズンシートを持たないメンバーや、外部の志を同じくする者に売り、活動資金を作っていたという。
一方で、こうした関係を断とうとした会長もいた。「殺す」と脅されながらも、暴力的サポーター集団ボイショス・ノイスをカンプノウから排除したバルサの前会長ラポルタだ。
しかしその勇気は潮流を生むには至らず、後を継いだ現会長ロセイその人が、'10年の会長選挙の際、ボイショス・ノイスと手を組んでしまった。彼らのためのエリアをスタンドに作ってやるからと、歩み寄ったそうだ。
クラブ側が強気に出られないもうひとつの理由は、そういった集団を認めるチームがあることだろう。マドリーの場合、ウルトラス・スルのグッズを手に、笑顔で写真に収まった選手が多数いる。ロベルト・カルロスは試合後、脱いだユニフォームをグループのリーダーにプレゼントしたことがある。昨季の最終節ではモウリーニョがウルトラス・スルからの記念品を受け取っている。
内部抗争を機に、ペレスは直ちにパスを無効化した。
だが今回、マドリーのペレス会長は決断を下した。きっかけはウルトラス・スル内で起きた世代闘争だ。
直接的な対立が始まったのは10月19日に行なわれたマラガ戦の最中。ウルトラス・スルの陣地であるサンティアゴ・ベルナベウの南ゴール裏で、試合とはまるで関係のない政治的見解の違いから、両者の間で激しい口論が勃発した。
そのとき生じた溝は次第に深まり、11月9日のレアル・ソシエダ戦前、ウルトラス・スルのたまり場となっているバルで、若い世代は実力による政権奪取に踏み切った。武器を手にしてのケンカである。
グループの内部抗争について事前に知らされていたペレスは一報を受け、例の250席分のシーズンシート用パスを直ちに無効化した。これまでのことを考えると非常にドラスティックな対応だ。クラブ側の弱腰を嘆いてきた人権擁護団体のイバーラ会長は喝采したに違いない。
では、なぜペレスは突然これほどの急ハンドルを切ったのか。