セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
W杯、欧州CLに続きアジアCLを制覇。
勝つほどに“若返る”名将、リッピ。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2013/11/19 10:30
4万2000人の大観衆を背に選手たちから胴上げをされるリッピ。
白髪の指揮官を今も突き動かす、苦い敗戦の記憶。
クラブの親会社「エバーグランデ・リアル・エステート・グループ」が持つ突出した野心と資金力が、アジア制覇を後押ししたのは間違いないが、チームの戦術的方向性をまとめ上げ、決勝戦のロスタイムまで戦う集団に鍛えぬいたのは、本場欧州のCLで修羅場をくぐりぬけてきた名将リッピの手腕だ。
セリエA時代、しばしば“軍隊じみている”と批判された厳しい指導スタイルは、南米組以外の中国選手たちにはむしろ受け入れられた。いまどきの若手監督ではとても醸し出せない“私についてこい。そうすれば勝たせてやる”といった家長的態度が、攻撃に偏りがちなチームの守備陣に程よい安心感と緊張感を与えた。
「技術的にも精神的にもこのチームは強くなった。多くの欧州のクラブと対等に戦える」
何より65歳の名将は、今も勝利への欲を無くしていなかった。
'96年の欧州CL戴冠後、リッピはCLのファイナルで3度敗れている。3度の準優勝は深い悔恨を生んだ。
イタリア代表監督としては、ドイツ大会に続く連覇へ挑んだ2010年の南アフリカW杯ではまさかの未勝利に終わり、グループ最下位で敗退。「史上最悪の代表」と猛批判を浴び、恥辱にまみれた名将は沈黙するしかなかった。
苦い敗戦の記憶が、白髪の指揮官を今も突き動かす。敗北を塗りつぶせるのは、勝利だけだ。
「私は20歳若返ったぞ!」
今季の超級リーグではすでに連覇を決めている。アジアCLは、名将にとって18個目のタイトルだった。表彰式の後、誰から問われることもなく「南アフリカのリベンジではない」とつぶやいたが、その言葉を信じる者はいない。
中国サッカー界が近年抱えてきた日本と韓国へのコンプレックスを破った今、リッピの中国代表監督への就任待望論が日増しに高まる。
「まずは(来年末までの)広州恒大との契約を満了してから」という指揮官には、その前にまだ倒す敵がある。
標的は、昨季の欧州CL王者バイエルンだ。
12月、モロッコで開催されるクラブW杯への出場権を得た広州恒大は、アフリカ王者のアル・アハリ(エジプト)との初戦を突破すれば、最強バイエルンへの挑戦権を得る。
「世界最強のチームを前にして、嬉しくないはずがない。バイエルンは強い。だが、勝負は戦ってみるまでわからんよ。アジア王者の誇りを見せよう」
やはり史上屈指の名将と呼び声高い、23歳年下のグアルディオラとの対戦をリッピはすでに見越している。リッピはアジア王者になった瞬間に、こう叫んだ。
「私は20歳若返ったぞ!」