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クリフ・リーとフィラデルフィア。
~23億円以上を袖にした「決断」~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/12/18 08:00
ヤンキースより大幅に少ない金額だが、それでも、1年平均2400万ドルは投手として史上最高年俸という
クリフ・リーがフィリーズを選んだ。
フィリーズを上まわる好条件を出していたヤンキースやレンジャーズのオファーを蹴って、フィラデルフィアへの帰還を選択した。
リーは、この冬のフリーエージェント市場の目玉だった。
なにしろ実績がちがう。過去9年間で4球団を渡り歩いて、102勝61敗、防御率=3.85。これだけでも堂々たるものだが、この数字には、故障のため満足に働けなかった2007年の不調(5勝8敗)が含まれている。
翌'08年、立ち直ったリーは22勝3敗の圧倒的活躍でサイ・ヤング賞に輝いた。ここ3年の合計は48勝25敗。高い値札も当然の成績だが、加えて彼にはポストシーズンに強いという特質がある。'09年と'10年の2年間、フィリーズとレンジャーズで投げて8勝2敗。とくにヤンキースとの相性は抜群で、3勝0敗、防御率=1.88の数字を残している。
ヤンキース、レンジャーズの巨額オファーを蹴った理由。
ヤンキースは、そんなリーに7年総額1億4800万ドル(約121億円)のオファーを出した。内訳は、2200万ドル×6年+1600万ドルのオプション(7年目)。喉から手が出るほど彼が欲しかったのだろうが、今年32歳のリーにしてみれば、至れり尽くせりの好条件といえる。
レンジャーズのオファーも高額だった。6年総額1億3800万ドル(約113億円)の保証に加えて7年目のオプション。しかもこちらには、つい先日まで在籍していた球団という条件も付け加えられる。
だがリーは、5年総額1億2000万ドル(約98億円)のフィリーズを選んだ。
理由は明快。'09年に在籍したフィリーズという球団が働きやすく、フィラデルフィアが住みやすい街、と考えたからにほかならない。
この考えは好意的に迎えられている。代理人のダレク・ブラウネッカーも、一挙に株を上げた。
当然だろう。
リーは23億円以上もの大金を袖にして、「野球のしやすい環境」を選択した。ブラウネッカーも、巨額のコミッションを見送ってまで選手の意思を尊重した。拝金主義がまかり通るプロスポーツの世界ではめったに見られない決断だ。1992年オフに、グレッグ・マダックスがヤンキースの誘惑(5年総額3400万ドル)を蹴って、ブレーヴス残留(5年総額2800万ドルだった)を決めたとき以来の快挙かもしれない。