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<銀河系以前のレアルを語る> ロベルト・カルロス 「歴史を変えた'98年の優勝」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byGetty Images
posted2010/12/01 06:00
1998年5月20日、アムステルダム・アレナでビッグイヤーを掲げる主将イエロと歓喜のレアルメンバー
表舞台に帰ってきた。その立役者であり、レアルで11年闘い抜き、
サイドバックの概念を変えたブラジル人が、“銀河系”とは違った
チームの魅力を語る。
――レアル・マドリーが32年ぶりにCLで優勝したのは'97-'98シーズンのこと。当時の主力として、あのチームをどう見ている?
「いま振り返ってみれば、あのチームは個性的で強いキャラクターを持った選手ばかりだった。イエロ、サンチス、ミヤトビッチにスーケル。まだ若いラウールもいたね。もちろん選手の技術は高かったけど、個々の強いキャラクターの印象の方が残っている」
――当時のチームの最大の強みは?
「あのシーズン、特に終盤はロッカールームの中に自信が溢れていたんだ。自分の力を信じている選手ばかりで、そんな強気の雰囲気がピッチ上でもいい意味で作用した。全員が欧州一のチームになりたい、そしてなれると信じていた。自分たちのプレーをしていればマドリーに勝てるチームなどないと。もちろん実際にレベルの高い選手が集まっていたことも大きい。オランダ代表のセードルフ、フランス代表カランブー、スペイン代表のラウールにアルゼンチン代表レドンド。精神面の強さと技術が上手く混ざったチームだった」
――君の攻撃参加はチームの攻撃パターンのひとつだった。
「チーム全体が僕を生かすプレーをしてくれていたんだ。特にFWのペジャ(ミヤトビッチの愛称)とはやりやすかったな。ペジャはとにかくマークを外す動きが上手かった。最前線で待っているだけじゃなくて、頻繁に中盤に下がっては攻撃の組み立てにも参加してくれた。試合展開を読んで後方に下がったり、僕のいる左サイドに開いてパスを呼び込んだりと、流動的にプレーしていた。CL決勝など決定的な場面でも得点を決めてくれたしね」
――個性派揃いのチームがまとまるのは簡単なことではない。
「主将のイエロがいたのは大きかった。彼がリーダーとしてまとめてくれたし、チームメイトとの対話を重視してくれた。あのチームはイエロを父とした家族のようだったな。ユベントスとのCL決勝前夜のことを今でもよく覚えている。合宿先のホテルでスーケルとミヤトビッチの部屋に集まって、そこでイエロはサンチスと共に語りかけてくれたんだ。『明日は絶対に勝てる。俺たちのように素晴らしいチームが負けるわけがないだろう?』とね。元々自信家揃いのチームだったけど、あれでさらに強い気持ちで決勝に挑むことができた。あの話は優勝の鍵だったとも思う」
――しかしそのシーズンのリーガではマドリーは苦境に立たされていた。
「リーガでは調子が悪く、周囲には失敗のシーズンだと言われていた。無冠に終わる可能性もあった。ハインケス監督も批判されていて、決勝の数週間前にハインケスと会長サンスが話し合い、来季の続投はないということにもなった。でもその直後、僕らは監督と会長にこう言ったんだ。『見ていてください、絶対にCLのタイトルをとります』とね」