濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
70kg級王者ペトロシアンの連覇なるも、
魔裟斗の幻影に踊らされるK-1MAX。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/11/23 08:00
決勝戦。パンチ中心に攻撃を仕掛けた佐藤嘉洋(写真左)に対して、ペトロシアンは落ち着いて対処して見事、連覇を達成した
今年も、K-1 WORLD MAXは立ち技70kg世界最高峰のトーナメントとして、過酷かつレベルの高い闘いが繰り広げられた。
ディフェンディング・チャンピオンであるジョルジオ・ペトロシアンの超絶的としか形容しようのないカウンター・テクニック。彼を攻略しようと、ひたすら前進を続けたアルバート・クラウスとマイク・ザンビディスの健闘も観客の心を捉えた。
佐藤嘉洋はローキックとヒザ蹴りでコツコツと相手にダメージを与えるファイトスタイルを貫いた。準決勝のドラゴ戦で見せたノンストップの攻撃は、K-1における彼のベストパフォーマンスと言っていい。
決勝戦はペトロシアンvs.佐藤。それまでの試合でペトロシアンは拳を、佐藤は右足を負傷していたが、そのことが“駆け引き”の要素をより濃くした。ケガを負った中でどう攻撃を組み立てるか、相手の攻めをどこまで読み切れるか。派手さがない代わり、他の選手では作りだせない緊張感を二人は演出してみせたのである。
3-0の判定で勝ったのはペトロシアンだった。史上初の連覇達成である。だが、この快挙にもかかわらず、大会は盛り上がったとは言えなかった。
大会規模を下げた、K-1の危うい現状。
11月8日に開催された決勝大会の会場は、これまでのような日本武道館、横浜アリーナではなく両国国技館。キャパシティが1ランク下がっている上に、満員にはならなかった。テレビ中継の視聴率も平均7.6%にとどまっている。
経営危機が噂されてきたK-1は、今年に入って中国の投資銀行と提携。ビジネスモデルを再構築している真っ最中である。そのため、大会運営が後手に回った感が否めない。MAXも、世界トーナメント開幕戦を二つに分けて開催されている。一つ目の代々木大会が行なわれた時点で、二つ目の開幕戦がいつ、どこになるかは発表されていなかった。
そういう状況では、ファンの反応は鈍くなって当然だ。加えて魔裟斗の不在も大きかったはずである。
2002年の旗揚げ以来、MAXの最大のテーマは“魔裟斗は優勝できるのか?”だった。極端にいえば“立ち技70kg世界一”よりも魔裟斗の存在のほうが大きく、重かったのである。彼にそれだけの価値があったことは間違いないのだが、アンバランスであることもまた確かだった。