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続『マネー・ボール』の主役は日本人!?
岩隈と松井秀がアスレチックスを救う。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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photograph byGetty Images

posted2010/11/16 10:30

続『マネー・ボール』の主役は日本人!? 岩隈と松井秀がアスレチックスを救う。<Number Web> photograph by Getty Images

アスレチックスのGMにして副社長のビリー・ビーン(左)と監督のボブ・ゲレンがクラブハウスで談笑

 ポスティングによる岩隈久志の独占交渉権をアスレチックスが獲得した。

 契約締結に至るまでは紆余曲折があるだろうが(双方の考えている年俸の隔たりが大きそうだ)、たとえ金額的に不満があってもそれを飲まない限り、メジャーのマウンドに立つことは出来ない。日本人選手は相対的に弱い立場に置かれているから、最終的に岩隈はオークランド・アスレチックスでプレーすることになるだろう。

 それにしても今回は、メジャーリーグ30球団の中でも年俸予算が下から数えた方が早いアスレチックスがポスティングに参加したこと自体が驚きだった。

もはや『マネー・ボール』は卒業した!

 おそらく今回の岩隈の移籍に関してアスレチックスという球団が様々な形で紹介されるだろうが、もし「アスレチックスというチームは『マネー・ボール』云々」という記述があったら、その見方は古いと思った方がいい。

『マネー・ボール』とは人気作家マイケル・ルイスが2003年に書いた、MLBのチーム運営に関する革命的な本である。アスレチックスは、当時まだ重視されていなかった出塁率などの数値にいち早く目をつけ、その計算の結果でお買い得と出た選手を集めまくって成功している……という筋立てだった。

 主人公となるのはジェネラル・マネジャー(GM)のビリー・ビーン(写真左)で、今度映画化される時にはなんとブラッド・ピットが演じることになっている。

 あれから7年。どうやらアスレチックスは『マネー・ボール』から卒業したようだ。

上原より評価の高い岩隈に1年500万ドル以下の契約は無い。

 その証拠が岩隈に用意したポスティング代金、約1700万ドルだ。以前のアスレチックスなら、こんな大金は用意しなかった。

 このお金は、あくまで契約が成立した場合の独占交渉権の代金である。プラス、複数年契約を用意しなければいけない。おそらくアスレチックス側はポスティング代金1700万ドルに加え、2年で1300万ドルほどの年俸を用意しているのではないか? つまり、アスレチックスにとって岩隈は「3000万ドル案件」というのが私の予測である。

 一部の報道ではアスレチックスが岩隈に用意している年俸は400万ドル程度とも言われているが、それはナンセンスだ。

 2009年、上原浩治がオリオールズと契約した時の年俸は500万ドルの2年契約という1000万ドル案件。当時の上原よりも現在の岩隈の方が評価は高いから、アスレチックスとしても500万ドル以上の出費は計算に入れているはずなのである。

 アスレチックスは『マネー・ボール』から卒業したのだ。

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