野球クロスロードBACK NUMBER
堀、小林雅、多田野の夢は続く……。
人生をかけたトライアウトの舞台裏。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2010/11/15 12:30
多田野がこの日の全投手の中で最高の投球内容を披露!
'02年、ドラフト1位候補ながら、故障などが原因で指名されず大学卒業後に渡米。5年間のアメリカ生活のほとんどがマイナー暮らしだったが、インディアンス時代には白星を挙げるなど足跡を残し、'07年の大学・社会人ドラフト1位で日本ハムに入団した。
逆輸入右腕として注目された1年目は7勝。2年目も5勝を挙げたが、3年目の今年は未勝利。たった1年の不振ではあるが、30歳という年齢がネックとなり、10月2日に戦力外通告を受けた。
「今日のようなピッチングをシーズンでもできていれば、こんなこと(戦力外)にはならなかった……」
打者4人に対し無安打無四球と完璧な成績だったにも関わらず、囲み取材での表情は終始固かった。わずか3年で戦力外となったことに忸怩たる思いがあったからだろう。
「通用しないと感じたらここには来ていませんから」
ただ、投球内容はトライアウトを受けた全投手のなかでも抜群だった。内角、外角のコントロールが素晴らしく、ふたりの打者に対してバットを2本へし折るなど、相手の裏をかく投球術は見事だった。
「バッターのタイミングを外すことはできたと思います。コントロールについては、ストライクを取ることが第一目標でした。それに、キャッチャーの荒川(雄太=ソフトバンク)が考えてリードしてくれた。サインに首を振っても、すぐに自分が投げたいボールを要求してくれたのが嬉しかった」
背水の陣でありながら、同じ境遇の荒川に配慮するなど殊勝なコメントが目立った多田野だが、現役へのこだわりは人一倍ある。
「自分の力が通用すると思ったからトライアウトを受けたので。通用しないと感じたらここには来ていませんから」
堀、小林雅、多田野は次のステージへの第一歩をこの場で踏み出すことができた。戦力外通告を受けた屈辱をバネにし、来年、捲土重来の精神で古巣を見返してほしい。そう、切に願う。