野球クロスロードBACK NUMBER
堀、小林雅、多田野の夢は続く……。
人生をかけたトライアウトの舞台裏。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2010/11/15 12:30
小林雅は「行き先が決まらなくてもイライラしない」。
10月29日に巨人から戦力外通告を受けた36歳の小林雅英も、自らの経験を遺憾なく発揮した。
日米通算234セーブを挙げた男は、やはりピンチに強かった。
打者5人に対して無安打1四球。球速もMAX145キロをマーク。その威力は、1打席目に本柳和也(オリックス)から本塁打を放った25歳の松坂健太(西武)が、「球、めっちゃ速かった」と驚嘆したほどだった。
「145キロを出せたのはよかったですけど、(三振よりも)ゴロを打たせるのが僕のピッチングなんで、フォアボールが心残りでした。カウント1-1、打者4人(四球を出したため5人との対戦)という決められたルールのなかでアピールするためには、絶対に抑えるしかない。それしか考えていませんでした」
加えて、長年にわたり守護神を務めた小林雅には、「前向きな開き直り」もある。
「トライアウトを受ける決心なんていりませんよ。置かれている状況を考えたときに、次のステージに進める方法が今の僕にはこれしか無かっただけのこと。やれることはやれたのですっきりしています。判断するのは球団ですし、もし行き先が決まらなくてもイライラすることはないです」
この日の彼には余裕が感じられた。それは、プレー以外でも同じだった。
オリックスが小林雅の獲得を検討しているとの報道が……。
投手の場合、投げ終われば自由に解散しても良いことになっている。小林雅は18人中6番目の登板だったが、すぐには帰らなかった。そのことを記者に尋ねられると、「そりゃあね」と当たり前のように理由を話した。
「チームメート(深田拓也と村田透)が投げるまで帰るわけにはいきませんよ。ライバルとはいえ1年間一緒に戦ってきた仲間だし、自分と同じ立場で投げている以上、やっぱり応援したかったから」
このような人間性もプラスに作用したのかもしれない。
小林雅に吉報が届いた。報道によると、オリックスが獲得を検討しているそうだ。彼の目の前でぼやけていた「次のステージ」は、今、はっきりと映し出された。
堀、小林雅に比べると実績は乏しいが、多田野数人は同年代のなかで誰よりも厳しい環境のなかで野球を続けてきた。