三食見学ツアーBACK NUMBER
田中健太郎/極真会館
「最強の空手家の侘しい食卓」
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph bySatoshi Ashibe
posted2010/11/10 06:00
全日本連覇のあかつきには「百人組手に挑戦したいです」
2日間で7試合のトーナメントを戦い抜くための食事とは?
「満腹だと身体が重くなってしまうので、一食あたりの量は控えめにしてます。10代のときは学校に弁当を3つ持っていって、午前中の中休みにひとつ、昼休みにひとつ、放課後にひとつ食べてから、道場で稽古して、家に帰ってどんぶりメシをおかわりしてました。いま振り返ってみても、相当苛酷な稽古をしてましたけど、どんなにしんどくたってひと晩寝れば完全に回復してましたからねえ……あのころの無尽蔵のエネルギーが懐かしい(笑)」
老人のような口振りだが、田中さんはまだ29歳である。肉体年齢はもっと若いだろう。
「油っこいものを避けるとか、野菜をたくさんとるとか、食事に関して心掛けているのはその程度のことですけど、大会10日ほど前から炭水化物を数日間カットして、体内のグリコーゲンを増やすためのメニューに切り替えます。トーナメントでは、2日間で7試合を勝ち抜く必要がある。いろいろ試してみたんですが、この“グリコーゲンローディング”でスタミナはだいぶつきましたね。それと脂肪もある程度つけておかないと、打撃のダメージを吸収できない。他の打撃系格闘技の選手よりは体脂肪率も高いと思います」
「テレビを相手の晩ごはんは侘しいです……」
「強くなるには肉を食え!」が極真会館創設者の大山倍達総裁の持論だったと聞くが、時代とともに考え方は変わる。この時代に地上最強を目指すには、科学的な知識は不可欠だ。
「テクニックは科学的なトレーニングで身につくかもしれませんが、ときには不合理と思える稽古も必要です。以前、合宿で雪山を裸足で数時間走ったことがあるんですが、案の定凍傷になりました(笑)。非科学的かもしれませんが、血反吐を吐いて、血尿を漏らす荒行に耐えることで、心は絶対に強くなる。ぎりぎりのところで勝負を分けるのは精神力ですから……あ、一般の生徒さんにはそんな猛稽古はさせませんのでご安心ください!」
少年クラスのちびっこには優しい声を掛け、社会人クラスでがんばる『空手バカ一代』世代のお父さんには理論的かつ丁寧に体の使い方を教授し、強さを求める黒帯の弟子には本気の回し蹴りで息を詰まらせる。威厳はあるが、威張らない。誠に立派な武道家である。
「でも、空手漬けの生活は正直寂しいですね。彼女をつくろうにも出会いがないですし……。テレビを相手の晩ごはんは侘しいです……」
極真最強の男の弱点、見抜いたり!
田中健太郞(たなかけんたろう)
1981年神奈川県生まれ。14歳のときに極真会館横浜港南支部に入門。2003年には若干22歳で川崎中原支部の支部長に就任。日々生徒に指導するかたわら、2009年には全日本空手道選手権大会で優勝するなど選手としても活躍。“地上最強”の極真伝説を受け継ぐべく、空手道を邁進する。