野球善哉BACK NUMBER
天理・智弁・郡山が44年ぶりに敗退。
奈良・桜井高の「人間力」野球に注目。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/07/30 11:50
奈良大付に4-1で勝利し、応援団に挨拶に行く桜井高の選手たち。甲子園ではどんな戦いぶりを見せてくれるのだろうか。
「3強」の壁を突き崩したのは普通の県立高校だった!?
この快挙を果たした桜井高は、普通の公立高校である。
当然、私学のように、有望な中学生を勧誘して獲得できなければ、使用するグラウンドも他クラブと共用で、広大な敷地があるわけではない。クラブ活動を一生懸命するという機運はあるが、それはどの公立校にもあるもので、野球部が特権を得ているわけではない。
しかし、桜井はそんな公立校の中にあって、ちょっと奇抜なスタイルで高校野球界に新風を巻き込んでいるチームである。
ガッツポーズなどの感情表現をすることを抑え、好プレーが生まれた時には敵味方関係なく拍手を送る。勝つことに固執せず、人間形成を最先端で重視する野球を実践している。
監督を務める森島伸晃は『人間力』をチームのテーマに掲げ、'03、'04年斑鳩の監督としてセンバツに出場。'06年秋、桜井の監督に就任した。
「今は『勝つため』に野球をやっていない」
「以前とは変わりました」という森島監督は桜井が実践する野球についてこう語る。
「以前までは結果がすべてやと思って野球に取り組んでいました。結果を出してナンボという観点の中、『勝つために』いろんなことを我慢しよう、『勝つために』人間力を鍛えようと。今は『勝つために』ではなく、今と先々の人生で自分の力で幸せになっていくためには、どういう心構えで野球に取り組めばいいのかと考えてきました。野球だけをやっていても野球が上手くならないというのは、以前からも感じていたことでしたが、では、その中で何のために野球をやるのかと問い続けてきたときに、普段の生活でやってきたことを野球で確認する。人間の力はすごいんだ、自分にはこんな力があるというのを野球で感じられたらと思っています。そのためには、自分に勝つことが大事だと思って取り組んできました」
相手を倒すのではなく、心の矢印を自分に向ける。日常生活や学校生活を大事にして、礼を重んじ、人に対する気遣いの心を持つ。野球は、あくまで普段の生活を映し出す鏡としてとらえ、実践の場とした。
2年前にも決勝戦を経験し、今回は見事にリベンジを果たした杉山功樹主将はいう。
「2年前は何も分からないままでしたが、先輩らの姿勢から伝わってくるものを感じ、同じ場所に戻ってくることができました。普段通りのことをやろうと思って、なかなかできないんですけど、日常でやって来たことを出そうとみんなで言ってきました。特に意識してきたのはあいさつや礼。どのチームよりもきれいにやろうと心掛けてきました。気遣い、気配り、姿勢……しょせん、高校生のレベルですけど、心を一つ前において取り組んできました」