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400戦無敗の男、
自身の半生を明かす。
~ヒクソン・自伝刊行インタビュー~ 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2010/10/26 06:00

400戦無敗の男、自身の半生を明かす。~ヒクソン・自伝刊行インタビュー~<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

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 '94年夏、日本で初めてバーリ・トゥード(総合格闘技)を披露した時のヒクソン・グレイシーの強さは衝撃的だった。彼が使うテクニックは、グレイシー柔術の神秘性を伝えるためには十分すぎるほどの魅力を兼ね備えていたのだ。

 その後も中井祐樹、高田延彦、船木誠勝といったそうそうたる面々と闘い、“400戦無敗の男”という看板に偽りがないことを証明した。このカリスマ性に満ちたブラジリアンの活躍がなければ、日本格闘技界の興隆はなかったといっても過言ではない。

 そんなヒクソンも3年前に引退を決意し、第二の人生を歩み始めた。初めての著作『ヒクソン・グレイシー 無敗の法則』は自伝であるとともに、自己啓発本としても役立つ作りになっている。

「現役時代の私は肉体・精神的なストレスだけではなく、無敗記録やグレイシー一族の看板も背負っていたので、目に見えないプレッシャーを多々感じていました。その体験を言葉に置き換え、一般社会で様々なプレッシャーを感じている人々に何か解決の糸口を見つけてもらえればいいと思って、この本を書きました」

本の中で明かされた離婚などの生々しい半生。

 本書でヒクソンは生々しい自分の半生も綴っている。例えば30年連れ添った妻と離婚、所有していたブラジルの農場やアメリカの自宅など大きな財産全てを譲ったことも明かしているのだ。

「男として財産を半々に分けるという考えはありえなかった。子供たちも手がかかる歳ではなくなったので、ゼロから再スタートを切る自信もありましたし」

 現在ヒクソンはアメリカからブラジルにUターン。20歳年下のガールフレンド・カシヤと平穏な日々を送っている。

「歳をとった種馬に若い芝生。もちろん夜の方も頑張っています(微笑)。こんなに幸せな時期はないと思う。ブラジルはものすごくオープンで、フレンドリーな土地柄。人生に区切りをつけた時、私はもう一度生まれ育ったリオの刺激が欲しくなったんですよ。治安は悪いけど、コツさえわかっていれば問題はない」

 そのコツとは、社会への対応力を指す。ヒクソンはそれを幼い頃から慣れ親しんだグレイシー柔術で学んだと説く。

【次ページ】 「“草食系男子”というライフスタイルには問題がある」

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ヒクソン・グレイシー

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