ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
スターが集う全米OPは恰好の“学校”。
21歳の松山英樹、大胆不敵の向学心。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byZUMA Press/AFLO
posted2013/06/20 10:30
最終日に大会ベストスコアを叩きだした松山。帰国後「世界のトップがまわっても、67というスコアしか出てないなかで、自分もそのスコアで回れたことはすごく自信になった」と語った。
半袖姿だというのに、藤田寛之は鼻をすすり、時折咳き込みながらスイングを続けていた。今年の海外メジャー・全米オープン開幕2日前、ペンシルベニア州はメリオンゴルフクラブでの事前練習の光景だった。
数日前から風邪をひいていた。しかし、その一見生気のない顔面と、鼻声で話す言葉は充実感で満ちていた。この日はかねてから念願だったジム・フューリックとの練習ラウンド。2003年の全米オープン覇者で、PGAツアーにおいて生涯獲得賞金で4位という戦績を誇る名手と、18ホールのプレーをともにした。
「また一緒に、ラウンドしましょう。来月の全英オープンの前もどうですか?」。そう声をかけられると、藤田は子供のような目で嬉々とした。
「『今度までに、日本語を少し勉強しておくよ』なんて言われて、なぜか自分も『Me, too』なんて言ってしまった……自分が日本語を勉強してどうする」と、口から思わず飛び出した英単語を反省しながら、興奮気味に話していた。
松山英樹も全米オープンを“探求の場”と捉えていた。
今回の機会はフューリックの出身校であるアリゾナ大学OBの関係者を通じて本人に依頼し、実現にこぎつけた。とはいえ、ベテランの藤田が、こんな風に海外のトップ選手との練習ラウンドを実際に申し出たのは、これが初めてではない。昨年から海外の試合に出場するたびに、マーク・ウィルソン、ルーク・ドナルドといった、やはりアメリカを主戦場とする選手に狙いを定め、事前ラウンドを画策してきた。
前述の3選手に共通するのが、藤田とプレースタイルが似ていること。パワーの差が歴然としているわけではなく、飛距離も、ほとんど変わらない。そんな彼らがなぜ、世界の第一線で戦えるのか。自分との差は何か。その答えを求めて、実際に稽古をつけてもらいに行く。
そして今大会、日本勢で最も存在感を際立たせた松山英樹も、大会が始まる前から藤田と同じように強い探求心を垣間見せていた。
プロ転向後初めて挑んだメジャー大会。「イーブンパーが素晴らしいスコア」という理念のトーナメントにおいて、最終日に6バーディ、3ボギーの3アンダーをマーク。「67」は大会のベストスコアに並ぶ数字だった。予選通過時点では37位だったが、終わってみれば、来年度の出場権が付与される10位タイにまで食い込んだ。