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ハミルトンと晩成型の大選手。
~MVP最有力打者の「大化け」~ 

text by

芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byYukihito Taguchi

posted2010/09/01 10:30

ハミルトンと晩成型の大選手。~MVP最有力打者の「大化け」~<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi

薬物使用で2度にわたって出場停止処分を受けたが、見事に復活。08年には打点王に輝いている

 ジョシュ・ハミルトン(レンジャーズ)の勢いが止まらない。打率、安打数、総塁打数がリーグ1位、長打率、OPSでもミゲル・カブレラに次いでリーグ2位。さらには、打点(リーグ5位)や本塁打(リーグ4位)といった部門でも上位に食い込んでいる。大げさにいうなら、イチローが突然変異的に長打力まで兼ね備えたような姿を見せているのだ。

 まぐれだろうか。

 大化けの第一歩だろうか。

 ハミルトンは晩成型の選手だ。1981年5月生まれだから、今年29歳。2年前の2008年に打点王を獲得したことはあるが、大リーグ実働期間は今季でやっと4年だ。1歳年上のアルバート・プーホルスに比べれば、実績は格段に劣る。2歳年上でやはり晩成型のケヴィン・ユーキリスと比べても、地味な存在であることは否めない。

 出世が遅れたのには、もちろん理由がある。

 若いころのハミルトンはドラッグに溺れていた。つい1年前にも、ナイトクラブで泥酔して上半身裸になり、女たちともつれ合う姿を写真に撮られるというヘマをしでかしている。つまり、行状がよくない。総身に知恵がまわりかねる大男(195センチ、110キロ)と呼ばれても仕方のないところがある。

破壊力を誇るパワーヒッターが“安打製造機”に突然変異。

 だが、今季のハミルトンは劇的に変わった。

 去年までの彼は、基本的にパワーヒッターだった。アダム・ダンやマーク・レイノルズのようにバットを振りまわして三振の山を築く一発屋タイプではないが、破壊力を売り物にする選手だったことに変わりはない。

 だが、今季の彼は理想的な中距離打者に近づきつつある。最大の驚きは、安打数が飛躍的に伸びたことだ。8月23日現在、120試合で169安打のハイペースはイチロー(125試合で161安打)をかなり上回っているし、この調子で進めば、打率=3割5分、本塁打=30本の数字を残す確率もかなり高い。そう、ハミルトンは、マイク・ピアッツァやジェフ・バグウェルといった「殿堂入り一歩手前の」選手のレベルに並びかけようとしている。

 アメリカのメディアでも、ハミルトンの評価は高い。レンジャーズがア・リーグ西地区の首位を走っていることもあって、彼をMVP候補の最右翼に推す声は高いし、スポーツ・イラストレイテッドのトム・ヴァードゥッチなどは、ディマジオ、マントル、ミュージアルといった歴史的大選手を引き合いに出し、ハミルトンを「現在、球界最高の選手」と褒めそやしているくらいだ。

【次ページ】 大器晩成のハミルトンは歴史に名を刻む活躍をみせるか。

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#ジョシュ・ハミルトン
#テキサス・レンジャーズ

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