オリンピックへの道BACK NUMBER
世代交代、暴力問題からの再生へ。
女子柔道で若き力が見せた気迫。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2013/05/13 11:40
柔道体重別選手権女子48kg級決勝。浅見八瑠奈は、母校・山梨学院大の後輩・山崎珠美に一本背負いで一本勝ち。8度目の出場で初めて掴んだ優勝に涙が溢れた。
「『女子柔道、いいね』と思ってもらえば」
4月21日の全日本女子選手権を制した際、78kg級の緒方亜香里(22歳)は、こうコメントした。
「見てくれた人が、『女子柔道、いいね』と思ってもらえばうれしいです」
今大会を前にして、48kg級の浅見八瑠奈(25歳)もまた会見でコメントしていた。
「柔道界はよくないイメージを持たれていますが、見ている人に感動をもう一度与えられたらいいと思います」
柔道界を包む空気は、否応なく、選手たちの心にもどこかしら影響を及ぼしている。
そんな中で迎えた大会、48kg級を制したのは浅見だった。
世界選手権を連覇しながら五輪行きを逃していた浅見が本領発揮!
1回戦、準決勝を勝ち上がって迎えた決勝の相手は山崎珠美(19歳)。浅見は試合開始から30秒も経たないうちに小外刈で有効を奪うと、1分10秒に体落としで再び有効。そして3分33秒、一本背負いで勝利を決めた。
8度目の出場でつかんだ初めての優勝である。世界選手権を'10、'11年と連覇するなど、派手な活躍をしてきたことを考えれば意外な感がある('12年は個人の世界選手権は開催されず)。谷亮子、福見友子、さらには山岸絵美ら実力者が名を連ねてきたこの階級の熾烈な争いをあらためて示す事実でもあった。
試合後、浅見は涙した。
「1年間たくさんの方に支えられて、感謝の気持ちでいっぱいで、それを言葉にできるのは優勝してのインタビューだったので、ここでお礼を言いたかったです。私1人だったら足を止めていたと思うんですけど、たくさんの方が一緒に戦ってくれて、また一歩を踏み出すことができたと思います。次につながるっていうことがほんとうに幸せなことです」
昨年、この大会では1回戦で敗れたことが災いし、ロンドン五輪代表を逃した。
「柔道人生の中で最も悔いが残りました」
五輪代表を逃した直後の全日本の強化合宿にもあえて参加し、大会にも継続して出場し続け、すべての大会で優勝し、気持ちの回復をも図ってきたこの1年。
ロンドン五輪代表で4月に引退を発表した福見がいないとはいえ、難敵のそろう階級で、しかも1年前からの過程を考えれば、優勝の重さは計り知れない。
大会後、世界選手権代表に選出された浅見は、3連覇をかけて臨むことになる。