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F1で日本人エンジニアのバトルが!
松崎淳と小松礼雄の頭脳戦を覗く。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2013/05/07 10:30
バーレーンGPの決勝レース。前を行くフォース・インディアのディ・レスタと、それを追うロータスのロマン・グロージャン。
2度目のタイヤ交換で松崎が選択したのはハードだった。
しかし、松崎はブリヂストン時代に培った経験とフォース・インディア加入後に築いたノウハウで、2ストップで走りきれるセットアップをマシンに施し、レース中は無線を通して、表彰台圏内を走行していたポール・ディ・レスタにテレメトリーを見ながら、ドライビングの指示を細かく送っていた。
「どこかのチームが『ダウンフォースがありすぎて、今年のタイヤは使えない』って言っていますが、それは言い訳。もし、私がピレリのスタッフなら、圧倒的に反論します」
判断が分かれたのが、レース後半、2度目のピットストップ時だった。
2番手を走行していたディ・レスタを逆転しようと3番手を、同じ2ストップ作戦で走行していたキミ・ライコネン(ロータス)が先にピットイン。逆転を阻止するには、すぐにピットインしたいところだったが、松崎は確実に表彰台を獲得することを優先。最後のスティントを短くするため、2周待ってからディ・レスタをピットに呼んだ。そして、そのとき装着させたタイヤがハードだった。
「ウチのクルマとセットアップなら、軟らかい方のミディアムでも行けたかもしれない。でも、ライバルたちのタイヤのタレ具合がひどかったので、安全策を採ってハードにしました」
ロータスの小松も2ストップ作戦を考えていたが……。
残り21周。3位が確実かと思われた松崎の前に、立ちはだかったのが、もう1人の日本人エンジニアだった。
ロータスの小松礼雄である。
ロマン・グロージャンのレースエンジニアを務める小松もまた、バーレーンで2ストップ作戦を念頭に置いてスタートさせていた。だが、スタート直後に前方で起きた接触事故で飛び散ったパーツがグロージャンのサイドポンツーンとブレーキダクトに入り込んでオーバーヒートしたため、そのパーツを取り除くために予定より早くピットインしなければならなくなる。
ここで小松は2ストップから3ストップに変更した。予選でわずかにミスを犯して11番手からスタートしていたグロージャン。ライバル勢と同じ3ストップ作戦で上位を目指すためにはコース上で抜いていかなければならない。しかし、今年のピレリタイヤは必要以上に攻めすぎると、あっという間にタイヤが機能しなくなる。前を追いつつ、タイヤに負担をかけないギリギリのペースを、小松はグロージャンに毎周のように無線で指示した。
それは最後のピットストップを終えて5番手でコースに復帰した43周目も同じだった。
3番手を走行しているディ・レスタまでのギャップは8秒。残りは14周。
一気に差を詰めたいところだが、小松は冷静だった。