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公式記録にはない
戦時下の夏の高校野球。
~“幻の甲子園”の物語~
text by
後藤正治Masaharu Goto
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2010/08/07 08:00
『昭和十七年の夏 幻の甲子園 戦時下の球児たち』 早坂隆著 文藝春秋 1600円+税
元球児たちが80代半ばとなっても克明に刻まれた記憶。
不幸な時代の、運悪き年度の球児たち、といえようか。だが、読後よぎるのは、別の感慨である。
旧球児の一人はこう語っている。「主催者に関していえば、朝日新聞だろうが文部省だろうが、それは私たちにとってはどうでもいいことでした」と。そう、やるのは「野球」なのだから。観客にとってもそうであったろう。連日、甲子園は立見席まで超満員であった。
戦火の気配を知覚しながら、おそらくボールを握るのもこれが最後、間もなく兵隊に取られ戦場の露と消えることも多分にある。この甲子園で、この大会で、全身全霊を込めて〈最後の野球〉を味わった――。
いま80代半ばにある彼らが、遠い日の思い出を克明に刻み込んでいるのはそれ故であろう。不幸で運悪きだけの世代ではないはずだ……。
文藝春秋BOOKS
戦時下開催の甲子園大会の「謎」に迫る
朝日主催から文部省主催に変更して強行された昭和十七年の甲子園大会。球児たちの引き裂かれた青春の虚実を描くノンフィクション大作!
<本体1,600円+税/早坂隆・著>
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