野ボール横丁BACK NUMBER
“底抜けに陽気で過干渉な兄貴”
デーブ大久保は誰にも理解されない?
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byToshiya Kondo
posted2010/07/28 11:45
今でも鮮明に覚えている。デーブ大久保こと、大久保博元の第一印象だ。
私が記者1年目のときのことなので、もう十年以上も前の話になる。大久保はそのとき、すでに現役を退き、解説業に就いていた。
東京ドームの関係者食堂でのことだった。
トレーにその日の日替わりメニューを載せ、レジの前で並んでいると、ちょうど真横にやってきた大久保が何事か話しかけてきたのだ。まるで十年来の知り合いにでも話しかけるかのような親しさで。
もちろん初対面だった。
話の内容はさっぱり覚えていないのだが、その飾らない人柄というか、それなりの有名人でありながら無防備過ぎるとも思える人柄に驚きもしたし、少々、感激もしていた。
おそらく私と同じような経験をした人が何百人といるのではないだろうか。
そのときの第一印象は、その後も変わらなかった。
取材で何度か世話になったことがあるのだが、イメージ通り、常にサービス精神旺盛。底抜けに陽気で、嫌悪感のようなものを抱いたことは皆無といっていい。
だが、そんな極端に開放的な性向にブレーキが付いてないのでは? そう危惧させる面も同時に持ち合わせていた。
皆にかまって欲しい寂しがり屋こそ大久保ではないか?
今年の自主トレ中のことだ。
大久保は、ある選手が車で練習場に現れるなり、ちょっとしたイタズラを始める。まずはその選手の運動靴を車高のある四輪駆動車の屋根の中央に放り投げる。被害を受けたその選手が、苦笑しつつ、その靴をやおら回収する。
するとその隙に今度は車のキーを強奪、一瞬のうちにある場所に隠してしまった。選手はキーを探すのは後回しにし、再び苦笑いを浮かべながら、ひとまず練習に向かった。
大久保のその行為はややもすると執拗ささえ感じさせるものだったが、選手の方は大久保の性質を十分に理解していたように思える。
大久保の言い分はこうだった。
「ほら、あいつは寂しがり屋だからさ。かまってやらないとダメなんだよ」
わからないでもない。でも、二人のやりとりを見ていて、それは逆なのではないか。そんな風に感じたことも確かだった。かまってほしいのは、大久保の方なのではないか、と。
その選手は、ある程度のキャリアを持ち、鷹揚すぎるほどに鷹揚な選手だったからまだいい。だが、万事この調子で接していたら、しかも、それが毎日ともなると、中には煩わしいと感じる選手もいるだろうな、という気がしたものだ。私が目撃した選手のように、それを受け流すだけの「適当さ」がない選手は特に。