石川の心を揺さぶったトム・ワトソンのラストシーン。

　そして、4日間でもっとも幸福な想定外は2日目の18番ホールで訪れた。予選ラウンドを一緒に回ったトム・ワトソンの予選落ちが確実となり、全英5勝を誇る偉大な選手の最後のセントアンドリュースに立ち会うことになったのである。

　ギャラリーの拍手に包まれてワトソンがフェアウエーを歩いていく。空に広がる雲は夕焼け色に美しく染まり、海風が別れを告げるように静かにピンフラッグを揺らす。自然と人間、すべてが一体となった幸せな共有空間に石川も溶け込んでいた。

「この試合に出る前は、こういう場面に立ち会えるとは思ってなかった。2010年のセントアンドリュースの経験を僕は忘れないし、最終ホールの拍手も絶対に忘れないと思う」

　いつかワトソンのようにセントアンドリュースの18番に迎えられる選手になる。そのイメージを今大会を終えた石川は抱けるようになったのである。