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去りゆくワトソンが石川遼に託した、
ゴルフの聖地・18番ホールの祝福。 

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雨宮圭吾

雨宮圭吾Keigo Amemiya

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photograph byKYODO

posted2010/07/23 10:30

去りゆくワトソンが石川遼に託した、ゴルフの聖地・18番ホールの祝福。<Number Web> photograph by KYODO

 試合前日の夕食後や就寝前、石川遼の脳内ラウンドが始まる。翌日の天候やスタート時間、同伴競技者などさまざまな要素を考えながら、これまでの経験則を踏まえてプレーのイメージを膨らませていく。それは自らの想像力の限界を試す作業でもある。

「予想外、想定外のことがないようにいろんなことを考えて気持ちを高ぶらせていく。けっこう細かいことまでイメージしますよ。だいたい5ホールぐらいで寝ちゃうことが多いかな。できれば18ホール回りたいですけどね」

 ゴルフ生誕の地、セントアンドリュースで行われた全英オープンの150周年記念大会。開幕前夜はきっちりと18ホールを回りきることができたのだという。自分なりにあらゆる状況を想定して準備は整えられたはずだった。

想像を遙かに上回って変化したコース・コンディション。

 しかし、聖地と呼ばれる舞台は安直なシミュレーションだけで測れるものではなかった。

 特にめまぐるしく変わるスコットランドの空と聖地の風はまったく気まぐれだった。初日の石川のプレーした午前中はリンクス特有の風がほとんどなく、一方で2日目は大風が吹き荒れ、全英にしてはめずらしい中断が入るほどだった。風やコースのデザイン上の問題から、1時間の中断を含めて7時間半のマラソンラウンドとなったのも通常なら考えられないことだった。

「違和感があった」

「意外だった」

「イメージしてなかった」

 そんな言葉が毎日のように口をついた。長い年月をかけてできあがった自然の地形をそのまま利用し、神が造ったとまで言われるセントアンドリュースでは、石川のさまざまな経験則や豊かな想像力をもってしても予測不可能な世界が広がっていた。

聖地の洗礼を浴びて石川にさらなるイメージ力がついた。

 厳しいコンディションでも大崩れすることはなかったが、当然のようにスコアは伸び悩んで予選通過順位は21位。2位で予選を通過した全米オープンと同じように上位で戦うという青写真は少しずつ崩れ始め、ゴルフそのものにもいくつかの「想定外」が生じていった。

 特に足を引っ張ったのはパッティングだった。ここにも風の影響があり、「風でボールが揺れて見えてリズムをつくるのに苦しんだ。なかなかない経験だった」とロングパットどころかミドルパットもほとんど決まらないような状態が続いた。石川にとってパターはまだまだ練習不足を自覚しているクラブで深刻にとらえる様子はなかったが、ここまで決まらないとは予想できなかったに違いない。

 一方でうれしい誤算だったのはショットの安定感である。風の中でも大きく乱れることはなく、4日間のフェアウエーキープ率は7位。「ここまでできると思ってなかったからビックリ」と想像以上の手応えがあった。

 石川の活躍の原動力となってきた想像力と発想力。大会を通じたショットの出来のよさを「自分の限界が広がった気がする」と振り返っていたが、積み重なった想定外は石川のイメージ力も拡張したはずである。今後は脳内ラウンドのバリエーションはさらに増える。それは聖地が与えてくれた貴重な財産だった。

【次ページ】 石川の心を揺さぶったトム・ワトソンのラストシーン。

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