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今季F1を制するのは師匠か弟子か?
マクラーレン出身エンジニアの戦い。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2013/02/21 10:30
スペインのへレスで繰り返されるテストを見つめるエイドリアン・ニューウェイ(左)とレッドブル・レーシング代表のクリスチャン・ホーナー。
日曜日のレーススタート前、ダミーグリッド上にF1マシンが勢揃いすると、エンジニアたちはライバル陣営のグリッドへ足を運び、目を凝らして他車をチェックする。レッドブルのテクニカルオフィサーであるエイドリアン・ニューウェイも、そのひとりだ。
たとえチャンピオンを取り続けていても、すべてのエリアでレッドブルのマシンがナンバーワンというわけではない。2012年は排気管周辺のボディワークの処理でライバル勢に後れを取ったことは記憶に新しい。F1の技術はライバルチームとの開発スピードの戦いである。そのためにはライバル勢がいまどんな開発を行っているのかを常に把握しておく必要がある。
「なぜ、このチームはリアウイング翼端板はこのような処理をしているのか?」
「リアタイヤ内側にあるブレーキ冷却用のダクトがこのような形状をしているのは、なぜか?」
同じ技術者としてライバル車を見つめるニューウェイは、レース中にも負けないほど真剣な表情で偵察して回る。なぜなら、そこに、新しい開発へのヒントが隠されていることが少なくないからだ。したがって、ライバルチームにとって、彼は招かれざる客となる。あの手この手を使って、機密情報が漏れないよう、ニューウェイの視界から自らのマシンを防御する。
ニューウェイの目の前に立ちはだかったマクラーレンのスタッフ。
その中で、ニューウェイの来訪をもっとも喜ばしく思っていないのが、マクラーレンだ。
あるとき、ニューウェイが近づくと、マクラーレンのメカニックたち数人が彼の前に立ちはだかり、しかも余っていたタイヤカバーを広げて、あからさまに嫌がらせをしていたことがあった。それはマクラーレンにとってニューウェイは、かつての同志であり、もっともマクラーレンの内情を知る現在の敵だからだ。
ニューウェイがウイリアムズからマクラーレンに移籍したのは'97年。加入して2年目の'98年にMP4-13を開発し、マクラーレンに7年ぶりのタイトルをプレゼントした。しかし、ニューウェイは'06年にレッドブルへ移籍。3年後の'09年にレッドブルに初勝利をもたらしたニューウェイが製作したマシンは翌'10年から快進撃を始め、ウイリアムズ時代、マクラーレン時代にも成し遂げられなかった3年連続ダブルチャンピオンという偉業を達成した。