F1ピットストップBACK NUMBER

トヨタが技術協力したフェラーリ!?
新型F1マシンに見えた王国の復権。 

text by

尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2013/02/07 10:30

トヨタが技術協力したフェラーリ!?新型F1マシンに見えた王国の復権。<Number Web> photograph by Getty Images

スペイン・へレスでのウインターテストに臨む、フェリペ・マッサとフェラーリの新型車F138。ノーズのデザインに段差が無く、例年になく美しいデザインのシルエットとなっている。

 2月1日の朝、目が覚めたルカ・モンテゼモロは、いつもと違う独特の雰囲気を感じたという。

 この日、午前10時半から、フェラーリはモデナ近郊のマラネロにある本社で、2013年シーズンを戦う新車「F138」の発表会を催すことを予定していた。フェラーリの会長を務めるモンテゼモロは、発表会のホスト役。少し早めに自宅があるボローニャを出発した。

 高速道路に乗ってすぐ、モンテゼモロは目が覚めたときに感じた雰囲気が間違いではなかったことを悟った。辺り一面が深い霧で覆われていたのである。視界が悪いにもかかわらず、モンテゼモロは幸せな気分で運転していた。なぜなら、彼の記憶に、あの日のことが蘇ったからである。それはいまから16年前の1997年の新車発表会の思い出だ。

発表会当日の“朝霧”は王国復活を告げる幸運のサイン。

 ミハエル・シューマッハを迎えて2年目のシーズンとなった'97年の新車発表会も、朝霧がマラネロを覆っていた。その年、フェラーリはジャック・ビルヌーブ率いるウイリアムズと最終戦まで激しいタイトル争いを演じた。最終的に王座は逃したものの、フェラーリがタイトル争いに絡んだのは'90年以来となり、王国復活への第一歩となった。

 その後、フェラーリはタイトル争いの常連となり、'99年にコンストラクターズ選手権を'83年以来16年ぶりに制すると、'00年には'79年以来21年ぶりにドライバーズチャンピオンを獲得。モンテゼモロにとって、朝霧は幸運の印として記憶されたのである。

 しかし、フェラーリの王権は'07年のドライバーズチャンピオン、'08年のコンストラクターズチャンピオンを最後に途絶える。それからというもの、モンテゼモロは新車が発表される朝になると、霧が出ることを待ち望むようになる。しかし、霧が出ることはなかった。

参加者全員がイタリア語でスピーチする発表会の伝統。

 フェラーリの新車発表会には、いくつかの伝統がある。

 イギリス系のチームや、日本チームが特設ステージを作って派手なパフォーマンスを催そうとも、フェラーリは自社のガレージで行ってきた。マラネロが大雪に見舞われて、交通がマヒしたときだけ近隣のサーキットに場所を移したことがあったが、それ以外はマラネロで開催し続けてきた。

 もうひとつの伝統は、セレモニーはすべてイタリア語で進行することだ。

 それはイタリア人のモンテゼモロがスピーチするときだけではない。司会者も、ドライバーも、壇上に上がる者は皆、イタリア語で話すことを義務づけている。それはスペイン人のフェルナンド・アロンソやブラジル人のマッサに対しても同様で、古くはドイツ人のミハエル・シューマッハに対してでさえ、メモ書きを用意させて、イタリア語でスピーチさせたほどである。

【次ページ】 老朽化した自社施設を見切り、他社の助力を仰ぐことに。

1 2 NEXT
フェラーリ
トヨタ
ルカ・モンテゼモロ

F1の前後の記事

ページトップ