MLB東奔西走BACK NUMBER
出場希望プホルスを主催者が不許可!?
WBCの選手選出における日米の落差。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2013/02/09 08:01
WBCへの途中参加を表明したとされるエンゼルスのアルバート・プホルス選手。一方、昨シーズン終了後に右ヒザの手術をしており、選手の体調を考慮したMLBと選手会が出場を許可しなかったとの報道もあり、出場に関して注目される。
つい最近のことだが、日本で報じられたWBC関連の報道についてちょっと考えさせられることがあった。
それはアルバート・プホルス選手の同大会出場について報じたものだ。
1月30日に日本の新聞各紙が一斉に報じたのは、昨年10月に右ヒザを手術していたプホルスが地元ドミニカ共和国のラジオ番組に出演し、決勝ラウンド以降からWBCに出場したい意向を明らかにしたという記事だった。これは記事の額面通り、MLBの主力選手の中にもWBC参加に積極的な姿勢を示す選手が現れてきたことを意味しているわけで、まさに歓迎すべき朗報のはずだった。
だが問題は、その前日の日刊スポーツに、まったく反対の立場からプホルスの参加について書かれた記事があったことである。
「(プホルスのWBC参加について)MLBと選手会から出場許可が下りなかった」とエンゼルスのジェリー・ディポトGMが語ったとロサンゼルスの地元紙が報じている、というものだった。
ざっと読む限り、相変わらずMLBの各チームは主力選手をWBCに出場させることに警戒心が強いのだなと感じられるものだった。だがそれ以上に重要なのは、各チームばかりかWBCを主催する立場であるMLBや選手会でさえ、選手の体調次第では出場に積極的にならないという点なのだ。
そしてこの話を日本に置き換えた場合、果たして日本にMLBや選手会のように冷静に選手の出場について正しい分析・判断をしている機関、組織が存在しているのかということが気になってくる。
WBC日本代表の選手たちのコンディションは本当に万全なのか?
日本中を騒がせたWBC参加問題が“灰色決着”して最終的に参加決定して以来、すでに日本でWBCの問題点について論じられる機会はほとんどなくなってしまった。その一方で年明けからは連日のように侍ジャパンの話題がマスコミによって取り上げられ、端から見ていると盛り上げに躍起になっているようにも見えてしまう。
肝心の選手選考に関しては山本浩二監督をはじめとするコーチ陣に一任されており、さらに辞退についてもすべて選手個人の判断に委ねられているので、NPBや選手会が選考に介在することはない。これでは場合によっては日本代表のチーム事情が最優先され、故障、手術明けの選手が不用意に選出され、シーズン開幕前に真剣勝負を強要されるという計り知れないリスクを負ってしまう可能性があるのだ。
今やNPB選手にとってWBCは唯一世界トップクラスの選手たちと同じグラウンドで戦える場になってしまった。大会の実情云々はとにかく、大会に出場したいと考えるのはアスリートとして当然の性だろう。
だからこそ冷静な立場から選手たちの状態に見極めながら出場を判断する機関、組織が絶対に必要であるはずなのに、どうもNPBは相変わらずWBCを利用して野球の人気回復ばかりに猛進しているような気がしてならない。