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“一芸”と“街クラブ”が生んだ躍進!
群雄割拠の高校サッカー選手権。
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKyodo News
posted2013/01/11 11:15
準々決勝の作陽(岡山)戦、先制ゴールを決め、喜びを表現する桐光学園のキャプテン大田隼輔(写真左)。中村俊輔(横浜FM)を擁した16年前の準優勝を超え、チームに悲願の初優勝をもたらすことができるのか。
第91回を迎えた全国高校サッカー選手権大会。予選を含めた参加4175校の中から、国立競技場のピッチに立つ権利を得たのは桐光学園(神奈川)、星稜(石川)、京都橘(京都)、鵬翔(宮崎)の4校。いずれのチームも、優勝すれば初の全国制覇となる。
'90年代から'00年代初頭にかけて、優勝候補の常連だった国見(長崎)、東福岡(福岡)、帝京(東京)が、最近では本大会にまでたどり着けないことも多くなり、群雄割拠の様相を呈している高校サッカー。今大会でも前評判の高かったチームはほぼ姿を消している。
例えば青森山田(青森)は初戦で野洲(滋賀)との好カードを制したものの、3回戦で星稜の前に敗戦。また、前年度優勝校の市立船橋(千葉)は激戦区の県大会で敗退するなど、絶対的な力を持つチームの不在を象徴する大会ともいえる。
そんな混戦模様の高校サッカーだが、準決勝以降の戦いを楽しむポイントとして、“一芸”を秘めている選手の存在、そして見過ごされがちだが、彼らの中学時代の所属元として、Jクラブの下部組織以上に目立つ「街クラブ」という存在の2つを挙げてみたい。
星稜の貴重な攻撃オプション、松岡哲の“一投”。
“一芸”で代表的なのは、ロングスローの使い手である。
まずは本田圭佑(CSKAモスクワ)を擁した第83回大会以来、8年ぶりの準決勝進出を果たした星稜のDF松岡哲だ。
右サイドで起点となり正確なクロスを送り込んでアシストを量産するMF井田遼平や、ハイボール処理が魅力の長身GK置田竣也らが中心となっている星稜だが、攻撃の貴重なオプションとして松岡の“一投”がある。
1点ビハインドで迎えた東海大仰星戦の後半8分、右サイド約25mはあろうかという位置から松岡が投じたボールは、レーザービームのようなライナー性の軌道でゴールエリア中央へと向かう。そのエリアに4人が殺到した星稜はまずFW今井渓太がプッシュ。相手GK・加藤広通の体に当たりこぼれたボールを、今度はFW采女優輝が左足でシュートを放った。
再び相手守護神のビッグセーブに遭って得点はならなかったものの、この決定機から攻勢に転じた星稜は、後半17分に井田が右サイドから送ったクロスを今井が体全体を使って押し込んで同点。PK戦の末に4強進出を決めた。