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なぜライコネンはF1界で特別なのか?
「放っておいてくれ!」は信頼の言葉。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2012/11/16 10:30
3年ぶりとなるアビダビでの優勝直後、ライコネンを囲むスタッフたちと。「他人が何を考えているのかを気にしたことはないね。自分のやるべきことをやるだけだよ」とクールにコメントしたライコネン。
強烈なエゴの持ち主だが、しっかり結果を出す仕事人。
今年、初めてライコネンと同じチームで仕事をすることとなった小松礼雄(ロメイン・グロージャンのレースエンジニア)は、次のようにライコネンのことを評価する。
「多くは語らないけど、必要なことは的確に言ってくれます。フィードバックも常に冷静で、エンジニアとしてはとても仕事がやりやすい。彼が指摘することを直せば、必ず速くなる。文句ばっかり言って、全然速くないドライバーが過去にいましたからね。キミは言うことは言うけど、それをやれば必ず結果につなげてくれます」
それは無線で「放っておいてくれ!!」と、突き放されるようなメッセージを送られた担当レースエンジニアのマーク・スレードも同様である。
「あの無線? 全然、気にしていないよ。だって、キミからああいうことを言われたのは、これが初めてじゃないからね。むしろ、あれがキミなんだよ」
今年、ライコネンのレースエンジニアとなったスレードは、昨年までメルセデスAMGに所属し、一時ミハエル・シューマッハーを担当していたが、反りが合わずにファクトリー勤務を命じられていたベテランだ。そのスレードをロータスに呼び戻したのが、かつてマクラーレン時代にコンビを組んでいたライコネンだった。
「キミから声がかかったときは、うれしかったよ。だって、去年のいまごろはファクトリーで仕事していたんだから。声がかかっていなかったら、いまごろどうなっていたかわからない。とはいえ、キミと一緒に仕事をするのは、簡単じゃない。というのも、彼は要求値が高いんだ。でもその分、やりがいがある。だから、いま私はとても充実している」
辛辣な言葉の影には、妥協を許さないプロ意識がある。
'09年ベルギーGP以来、1162日ぶりに優勝を飾ったライコネン。
チャンピオンが一度、F1を離れた後、カムバックして再び勝利したという例は、近年では'93年のアラン・プロストがいる。しかし、プロストがF1を離れていたのは1シーズンだけで、しかもカムバックしたチームは前年のチャンピオンチームであるウイリアムズ。これに対して、ライコネンは3シーズンぶりのカムバックであるとともに、チームは前身のルノーを含めても'08年日本GPから4年間、未勝利が続いていたのである。