Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
<プロゴルファー7年目の決意> 有村智恵 「自分のためにアメリカへ」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2012/11/08 06:02
“早すぎる”今季初勝利に悩む有村に父から電話が。
約1カ月遅れで開幕を迎えると、初戦こそ予選落ちに終わったが、その1カ月後にサイバーエージェントレディスで今季初勝利を挙げた。ケガで苦しんだ時期を支えてくれた人たちのため、恩返しとなる優勝だった。
だが、思いのほか早く勝てたことが、その先の目標設定を難しくさせたのかもしれない。手首の状態は確実によくなっている。ただし、賞金女王を目標にすればどこかで無理をしてしまいそうな気がする。初勝利の後に立て続けに勝っていれば少しは違ったはずだが2勝目がなかなか遠かった。6月には2週連続の2位。あと一歩のところで勝てずにもどかしさは募るばかりだった。
父から予期せぬ電話があったのはそんなタイミングだった。
「お前は十分に頑張ってるよ。だから無理するな。スイングを変にいじったりすればまた手首を痛めるかもしれないんだから」
話をすればいつもギクシャクしてしまう。だから久しく電話などしていなかった父が伝えてきたのは、自分を気遣ういたわりの言葉だった。
「めずらしかったですね。父がわざわざ電話をしてきてそんなことを言うのは」
有村が感じた父の変化。受け止める側の自分自身も変わってきていたことに本人は気づいていただろうか。
「家族のため」だったゴルフを「自分のため」のゴルフへ。
有村と一緒に暮らす姉の美佳さんは、その頃、妹の様子をこう語っていた。
「今までの智恵はまず家族のためにゴルフをしてきたんです。それが今は家族の生活はもう大丈夫というぐらいにはなりました。だから、何のためにゴルフをするのかというのがはっきりしてないんだと思います。今まではゴルフで親孝行をしてきたけど、それ以外にも何かしようと考えて急に1週間実家に帰ってみたりもしてました。プライベートでもどこかふわふわしてるし、自分がこれからどうしたらいいかを考えてるんだと思います」
自分のために時間とお金を注ぎ込んでくれた両親への感謝、なけなしのバイト代をゴルフに打ち込む自分への小遣いにしてくれた姉への感謝。これまで有村がゴルフに向かう最大の原動力は家族の存在だった。それがプロになって7年、ツアーの看板プロにまで成長し、注がれた愛情分の恩返しはひとまず果たし終えたと言ってもよかった。
「無理をするな」と父から優しい言葉をかけられたことは、「家族のため」だったゴルフを「自分のため」へと転換する1つの分岐点だったのかもしれない。