小宮山の予想どおりの展開でチャンスを増やしていく。

「この試合はオーストラリア戦に似ている。あのとき、どういうマインドで状況を変えたのか、思い出してみよう。リラックスして頭を使って、落ち着いてプレーすれば大丈夫」

　選手からも声があがる。「自分たちのペースを崩さずにやれば必ず勝てる」と、木暮賢一郎が手を叩く。「前半もチャンスは作れていたし、ゲームは支配できている」と、北原亘が応える。選手たちの頭上を覆っていた重苦しい空気が、取り除かれていく。巻き返しの準備が整う。

　後半の立ち上がりは、前半ほどシュートが多くない。ジレンマからの解放を示すシグナルだ。悪くない。いい傾向だ。

　後半開始直後の4分、ホームさながらの声援が響くアリーナを日本が沸かせる。稲葉洸太郎が相手のトラップミスを見逃さず、敵陣でパスカットする。ゴール前の星翔太へつなぐ。相手の圧力をブロックした星は、GKの動きを見て冷静にネットを揺らした。

　1分後には、バルドラール浦安でプレーする小宮山と稲葉のコンビが、日本に追加点をもたらす。高い位置で奪ったボールが、チャンスに、得点につながっていく。「リビアは同じ選手が長い時間出ているので、絶対に運動量が落ちる。足を止めずにプレッシャーをかければ、必ずペースを持ってこれる」という小宮山の予想どおりの展開だ。後半11分に小曽戸允哉があげた4点目も、敵陣でのボール奪取がきっかけとなった。

2つの強国に食い下がったことが歴史的快挙につながった。

　その直後からリビアがパワープレーに転じると、日本は守備力に秀でた選手を揃えて対抗する。アンラッキーなPKから後半17分に失点したものの、4－2で勝ち点3を積み上げた。最終的には3－0で勝利したアジア選手権のオーストラリア戦のように、後半からゲームを修正したのである。

　同時刻に別会場で行なわれたブラジル対ポルトガル戦は、ブラジルが3対1で勝利した。ともに1勝1分1敗のポルトガルに、日本は得失点差でグループ2位を譲った。しかし他グループの結果により、グループ3位のうち上位4カ国に入ることが決定した。4度目のW杯出場で、史上初のグループステージ突破を果たしたのである。

　ワイルドカードによるラウンド16入りも、チームの奮闘を汚すことにはならない。実力国が格下から大量得点をあげるゲームが目立つなかで、日本はブラジルとポルトガルに食い下がった。ゲームを投げ出さなかったことで、リビア戦の勝利が意味を持ったのだ。「このグループのなかで勝ち点4を得たのは、ものすごい価値がある」とカズが力を込めて話すのも納得できる。

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