野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
落合博満氏の講演会に潜入――。
オレ流発言から考えるWBC監督問題。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/09/14 10:31
中日監督時代の落合氏。次にユニフォーム姿が見られるのはいつの日か。
「あの人にやらそうっていう動きがないんですよね」
多分多くの人が抱いたはずであろう思い。野球界が縦割りの社会であり、政治的なしがらみがあったとしても、何故肩書きよりも先に「監督として優秀だから」という単純明快な理由があがってこないのだろうか――。
一方で、落合氏はこんなことも言っていた。
「今回、監督のなり手がいないと言われているけど、いないわけじゃない。やりたいと思っている監督はいっぱいいます。ただしその人らに白羽の矢が立たないんです。一番やりたいのは野村さんに決まってるじゃない。俺は野村さんがやる全日本を見てみたい。あの人に戦力を与えてどういう戦いをするのか、見たいと思っている人がいっぱいいるんです。ところが、まぁ、あの人にやらそうっていう動きがないんですよね」
その後も落合氏は北京五輪で岩瀬が憔悴しきって帰ってきたこと、第2回の中日選手出場拒否問題の真相、摩擦を起こさないためにも事前に参加意志のアンケートを実施すべきと口を酸っぱくして訴えてきたこと等々、国際大会における野球界の問題点を立て続けに突き、監督時代からは想像もつかない濃密なマシンガントークで会場を圧倒。講演会は大盛況のうちに幕を閉じた。
野球世界一決定戦が形骸化してしまう前に……。
しかし、返す返すも思うのは、WBCの監督問題は何故ゴタゴタが続いてしまうのかということ。野村克也氏のように誰もが才を認め、さらに「やりたい」とまで言っている監督が呼ばれない、もしくは落合氏に「永遠に有り得ない」と頭から拒否されてしまう今日の状況は、WBCが真の栄誉ある国際大会ではないことを暗に物語っているようで、非常に虚しくなる。
野球だけで考えれば、第1回、第2回ともにあれほどまで感動した大会はなかったのである。あの優勝した瞬間の歓びは、国民の誇りであり、それこそ、生涯忘れることのない栄誉だった。
野球世界一を謳うならば、しがらみに惑わされることなく、球界すべてが自然に協力できるような組織体系を作ることは急務だ。次回大会以降も同じことが続けば、いずれこの野球世界一決定戦も形骸化してしまう気がする。
今のWBCは日本の監督問題だけに留まらず問題が山積しているが、いつか落合氏も代表監督を快諾したくなるぐらい世界の野球人の誇りとなるような大会になってほしい。もしかしたら、それが「太陽が西から昇っても有り得ない」ぐらい難しいという意味なのかもしれないが。