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<ナンバーW杯傑作選/'07年10月掲載> オーストリア&スイス戦 「オシム・メソッド第2章へ」 ~欧州遠征で進化した日本サッカー~
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTsutomu Kishimoto
posted2010/06/01 10:30
今回招集されなかった欧州組はジョーカーになる。
「結果よりも内容を重視したい」大会で、「ここまでいい結果を残せるとは思わなかった」と、試合後にオシムは本音を語った。
2-0とリードした後、スイスが勝負にこだわっていたら、試合内容も結果も異なっていただろう。だがスイスはゲームを決めに行かず、コビ・クーン監督はEURO本番に向けて選手のテストを優先した。
そうした状況での逆転劇であったが、結果を残したことには意義がある。アジアカップで見えた課題は克服されてはいないが、経験の面で着実に一歩前進したといえる。
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来年2月からはじまるワールドカップ予選に向け、チームの骨格はほぼ出来上がった。中田や三都主ら、今回は招集されなかったヨーロッパ組は、いざというときのジョーカーになるのだろう。ザルツブルク移籍以前の三都主は、オシムジャパン不動のレギュラーだった。ポリバレントで適応能力の高い中田は、いきなり招集されてもすぐにチームに入っていける。どちらも今すぐ慌てて呼ぶ必要はない。切り札を切るならば、一枚ずつ、必要に応じてというのがオシムの意図だろう。
構築力と継続性こそ日本サッカー最大の武器だが……。
ではもうひとつの課題である個の能力を、どうやって伸ばしていくのか。ワールドカップ予選までに、テストマッチは10月のエジプト戦が予定されているのみである。もちろんその間に、短期の国内合宿を組むことはできる。そこでコンビネーションや共通意識を養えても、あくまで練習にすぎない。スタートの悪さ、仕掛けと切り替えの遅さといった欠点は、実戦を通してしか克服できないが、アジア・チャンピオンズリーグやクラブワールドカップを含めても、その機会はあまりに少ない。日程に関しては、オシムといえども魔法の杖を持っているわけではない。
ならばどれだけ高い意識を持って、Jリーグを戦えるか。そのための緊張感と刺激を、オシムは選手たちに常に与え続けている。それはヨーロッパ組も同じである。
「僕らは日本でやっている選手よりチャンスが少ないし、ハンディを負っている感じがする。周囲と合わせるにも、もう少し時間がかかるし、もっと呼んで欲しい」と松井はいう。
「このチームは、波に乗ればボールがどんどん出てくるし、すごくいいサッカーができる。監督の要求は高いけど、やりがいはあります」
ワールドカップ予選を戦いながら、チームは進化していくのだろう。構築力と継続性。このふたつこそが、日本サッカー最大の武器であるのだから。