プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ホジソン監督への期待値は過去最低。
重圧なきユーロでのイングランドの利。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/06/05 10:31
国民は新監督ロイ・ホジソンに「good luck」とエールを送る。結果を求めるというよりも、ベストを尽くせという期待値の低さはチームにとってプラスに働くか。
主力の怪我やら、スキャンダルやら、国際大会に向けたイングランドのプランには「予想外」が付き物だ。
今夏のEURO2012前も例外ではない。ピッチ上に関しては、最大の武器である、ウェイン・ルーニー(マンU)のグループステージ2試合出場停止と、中盤の新たな核となるべきジャック・ウィルシャー(アーセナル)の欠場が決まっていたが、ここにきてベテランのフランク・ランパード(チェルシー)までもが負傷欠場になってしまった。さらにピッチ外では、言わずと知れたジョン・テリー(チェルシー)の人種差別発言問題が。大会後に裁判を控えるこの一件は、2月にテリーの代表キャプテン降格と、ファビオ・カペッロの代表監督辞任を招いた後も尾を引いている。
中でも物議を醸したのがCBの人選だ。テリーの人種差別発言の被害者が実弟のアントン・ファーディナンドである、リオ・ファーディナンド(マンU)。彼にすれば、一緒にピッチに立つことはもちろん、控え室を共にすることすら耐え難いに違いない。チーム内が二派に分裂する恐れもある。テリーとファーディナンドの二者択一は、5月1日にカペッロの後任として就任が発表された、ロイ・ホジソンに委ねられた。
カリスマなきホジソンの就任に国民の期待は肩すかし。
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このホジソン就任自体も、国民にとっては予想外だった。協会は、「就任を打診した唯一の候補」としてホジソンを指名したが、世論は、過去3シーズンでトッテナムを2度のプレミアリーグ4位に導いた、ハリー・レドナップ監督を求めていた。カペッロが代表を去るや否や、ルーニーが「俺の一押しはハリー」とツイートし、大衆紙が「ハリーをゲットせよ!」と見出しを打つなど、レドナップ就任への機運が一気に高まった。
たしかに、64歳のホジソンは、年齢的にもレドナップと同世代の母国人で、かねてから代表監督就任を希望していたベテラン監督だ。活動の舞台は計8カ国を数え、スイスを率いて1994年W杯でベスト16入りを果たすなど、レドナップにはない代表監督歴もある。ウェストブロムウィッチとの契約が今季末までだったことから、代表への引き抜きに違約金が発生しないこともあり、安牌的な代替候補ではあった。
しかし、W杯南ア大会以降のカペッロ体制に幻滅していた代表ファンは、名モチベーターのレドナップが、イングランドの停滞感を一掃し、高揚感を生み出してくれると期待していた。これに対してホジソンは、フルアムでは2010年EL決勝進出を果たせても、続くリバプールでは191日間の短命に終わったように、弱小クラブが精一杯の、求心力に欠ける指導者とみなされていた。