プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ホジソン監督への期待値は過去最低。
重圧なきユーロでのイングランドの利。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/06/05 10:31
国民は新監督ロイ・ホジソンに「good luck」とエールを送る。結果を求めるというよりも、ベストを尽くせという期待値の低さはチームにとってプラスに働くか。
道義よりも実用を優先したテリーの招集は吉と出るか。
招集メンバー発表は16日。新監督はテリーを選んだ。道義上の対外的なイメージや、黒人選手もいる内部のモラルを考慮すれば、“ギャンブル”とも言える。だが、ホジソンが、リスク回避を最優先するタイプの指揮官であることを考えれば、「サッカーの面だけを考慮した人選」という本人の言葉通り、実用的な観点からの判断と解釈すべきだろう。
今季の出場試合数は、テリーの52試合に対してファーディナンドの42試合と、10試合の差でしかないが、後半戦のテリーは、チェルシーが優勝を果たしたCL決勝トーナメントとFAカップ戦で、肋骨にヒビが入った状態ながらも連戦をこなして守備のリーダーとなった。一方のファーディナンドには、昨年6月を最後に代表戦に出場していないというハンディもあった。更には、ファーディナンドを切ったというよりも、連戦が怪しい30代を1名外したことにより、正規の右SBがグレン・ジョンソン(リバプール)しかいないDF陣の1枠に、最終ラインの全ポジションをこなす20歳の万能DF、フィル・ジョーンズ(マンU)の招集が可能になった。
一目置かれるコーチのネビルが監督と選手の仲介役に。
この、「名より実を取る」とも言うべきアプローチは、本大会でのイングランドに嬉しい誤算をもたらすことになるかもしれない。メンバー発表から、6月11日のグループステージ第1節フランス戦まで、新監督に与えられた準備期間は26日間しかない。誰が監督でも、チーム作りには非現実的な日数だが、さらにホジソンは代表の主力に望まれていた監督ですらない。就任会見の席で、「(レドナップの就任が望まれていた)事情を理解していないはずがない」と語ったホジソンは、現実を直視して、早々に実用的な措置をとった。
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メンバー発表に先立って発表された、ガリー・ネビルのコーチ就任だ。昨年の現役引退後、テレビ解説者に転身したネビルだが、UEFAのAライセンスまでは取得済み。テレビ局との契約も、代表との掛け持ちが可能な条件だったことから、ホジソンの指名を受けた。元マンUのチームメイトで、現在は同業者のロイ・キーンなどは、「指導者としての実績がない」と手厳しいが、ネビルに求められる最大の役割は、選手、特に主力勢との仲介役だと思われる。
創造性よりも確実性を重んじ、守備ドリルの多いホジソンの指導は、リバプールでもそうだったように、トップクラスの選手には敬遠されがちだ。だが、長年マンUと代表でレギュラーを張ったネビルは、現在の代表メンバーからも一目置かれている。実際、24日の練習初日から現場で声を上げており、ホジソンと、フルアムから助監督として引き抜かれたレイ・レウィントンの補佐役として、指示の徹底に一役買うことだろう。