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仙台への切ない想いをふっ切った!
中日・山崎武司が抱く“現役”の矜恃。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

PROFILE

photograph byNanae Suzuki

posted2012/05/29 10:31

仙台への切ない想いをふっ切った!中日・山崎武司が抱く“現役”の矜恃。<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

今季ここまで(5月27日現在)、32試合に出場して打率.256で本塁打はいまだ無しの山崎武司。仙台での対楽天戦では「力が入り過ぎたな」と語っている。

「『まだ俺のなかの火は消せねぇな』って思ったんだよ」

 Kスタでの楽天戦で山崎は「元気な姿を見せる」というファンとの約束を果たした。それと同時に、これまでくすぶり続けていた感情も完全に吹っ切れた。

 くすぶり続けていた感情。それは本人の言葉にもあったように、昨年10月9日に楽天から自由契約を勧告されてしまったことで、愛着あるチームに別れを告げざるを得なくなったことだった。

「引退」という文字も脳裏をよぎったが、知人や家族の「辞めないでほしい」という激励、そして山崎本人にも当然、「続けたい」という意思があった。そのような経緯があり、「自分のなかの火を消せなかった」と、コーチの要請を断り現役続行を表明した。

 しかし、それが全てではなかった。

「俺は『結果がダメだったら辞める』とずっと言ってきた。確かに去年はダメだった。でも、(右手薬指を)骨折する前は紛れもなく俺が打線を引っ張ってきたって自負があった。だから、次の年は大幅減俸だって覚悟していたし、絶対に結果を出してチームに責任を取りたかった。もちろん、応援し続けてくれたファンに恩返しをしたいとも思っていたの。それが、9月の半月の不調(39打数1安打)だけで『来年は契約をしません』と言われて。球団の総意で『山崎はいらない』となれば仕方がないと感じたかもしれない。でも、一部の人間から『なんで辞めさせるんだ』という雰囲気が伝わってきたんだよね。球団からは『コーチとして残ってほしい』と最大限の敬意を払ってもらったけど、それに関して俺はすごく残念だった! だから『まだ俺のなかの火は消せねぇな』って思ったんだよ」

拾ってくれた古巣中日で「もうひと花咲かせるぞ!」。

 捨てる神あれば拾う神あり。その表現を用いれば、山崎の古巣である中日が獲得に手を挙げてくれたことは幸運だった。しかも、球団代表が「山崎武司は別格だ」と、年俸3000万円プラス出来高払いの契約をしてくれたことも、山崎の闘志を増大させた。

「『別格だ』と言ってくれた球団の誠意だよ。これは本当に嬉しかったし温かみを感じた。『俺は中日でもうひと花咲かせるぞ!』って気持ちにさせてくれたもん」

 山崎は何より相手の想いを大事にする。自分を本当に必要としてくれるのであれば、最初は控えでも構わない。立場など自分が打って覆してやればいいと、意気に感じながらバットを振り続ける。そういう男なのだ。

 春季キャンプでは若手と混じってランニングをこなすなど精力的に練習に参加し、オープン戦では全選手中トップの4本塁打をマークした。開幕戦も4番としてスタメン出場を果たすなど、今シーズンを最高のスタートを切ることができた。

 ただ、安打は出るものの本塁打が1本も出ない。その間、4番争いを展開していたブランコが本塁打を量産し、最近の山崎はベンチを温める日のほうが多くなった。

【次ページ】 豪快なホームランこそが、ファンへの何よりの恩返し。

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山崎武司
中日ドラゴンズ
東北楽天ゴールデンイーグルス

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