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日本一諦めきれない男の人生──。
古木克明は今もオファーを待っている。 

text by

村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

PROFILE

photograph byKatsuaki Furuki

posted2012/05/03 08:02

日本一諦めきれない男の人生──。古木克明は今もオファーを待っている。<Number Web> photograph by Katsuaki Furuki

日々自らの身体に鞭打つようにして激しいトレーニングを続けている古木克明。古木ファンならば……ツイッターの@furukiktakとフェイスブックをチェックすべし!

「もう、野球だけ、僕は野球をやるしか道がないんです」

「……そう思っていましたけど、実際はやっぱり、いろいろ考えてしまう。何度も泣きましたよ。車の中で『俺は何をしているんだ』、『どうしてうまくいかねえんだ』って。もうすべて投げだして、このまま海の中に飛び込んでしまおうかとも思い、何度も自暴自棄になりかけました。

 でも投げだすわけにはいかないですよ。すごいんですよ。復帰を決めて以来、僕を応援してくれる人の声が、すごいあるんですよ。はじめて入ったコンビニの店員に『頑張って復帰してください』と励ましてもらったり、トライアウトの当日には雲の上の存在だった清原さんから励ましのメールもいただきました。フェイスブックでは『諦めるな』『頑張れ』って毎日書き込みをたくさんもらって……あれを見せられたらとても『諦めます』なんて言えませんよ。

 もう裏切れない。周りの人たちに対しても、自分自身にも、これ以上裏切ることはしたくない。もう、野球だけ、僕は野球をやるしか道がないんです」

「育成契約でもいい。給料なんてゼロでいいんです」

 しかし、昨年の中村ノリのように、シーズンが開幕した後に入団した例なんてものは異例。さらに何人かのOB選手からも聞いたことがあるが、野球界というのは一度外に出た人間に対してはとことん冷たい閉鎖的な世界である。それが古木のような後ろ足でなんやらを掛けて出て行った人間を受け入れる可能性は限りなく低い……なんてことをいう人もいる。

「そうなのかもしれないですけど、でも辞めるわけにはいかないですよ。トライアウトの時も『獲得する人間は最初から決まっているからね』と言ってくる人がいましたけど、そんなことは百も承知の上。難しいことに挑んでいることもわかってます。でも何かを変えたい。変えられると思うからやっているんです。実際に今練習をしていても、どんどんいい感じになっているのがわかるんですよ。バットの出方がよくなったので、今の打球は間違いなく現役の時よりも速くなっていますし、ホームランだって打てる。やれる自信があるんです。だからもどかしい。育成契約でもいい。給料なんてゼロでいいんです。野球だけをやれれば、他に何もいらないですから」

 このような心構えを現役時代に少しでもわかっていれば……と、引退した選手はだいたい口を揃えるのは、大事なことは失くしてから気づくのが世の理だからであろう。ただ古木の場合、世の理に逆らい、死後の世界でわが人生を省みてひと通り反省した後、生き還ってきたような、そんなイレギュラー感がある。特にベイスターズ時代と今では別人と言ってもいい。

【次ページ】 いまなら受け入れられる「豚朗」事件の天然キャラ。

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古木克明

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