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<ナンバーW杯傑作選/'93年11月掲載> 「テクニックで強さを制しての勝利」 ~宿敵韓国を破りアジアの盟主へ!~
text by
後藤健生Takeo Goto
photograph bySports Graphic Number
posted2010/05/10 10:30
泥臭いカズのゴール。韓国に1点を追う気力はなかった。
前半終了の時点で韓国は戦闘意欲を失っているように見えた。
韓国はハーフタイムにエースの盧廷潤を交替させ、後半15分過ぎには金鋳城も引っ込め、スピードのある徐正源と金正赫を入れたが、それでも状況を打開することはできなかった。
一方、日本の最初のビッグチャンスは開始11分に訪れた。ラモスから左に出たボールを中山がセンタリング。井原がドンピシャリのタイミングで走り込みシュートしたが、これが右ポストに当たってしまう。この大会日本のシュートがポストに当たったのは、これで4回目である。カリファ・スタジアムのポストはまったく日本と相性が悪い。
16分には、柱谷がドリブルで約40mほど上がってきた。大きなチャンスにはならなかったが、そのドリブルの間、韓国の選手は誰もチェックに行かなかった。韓国の守備の組織が、早くも崩れ始めたことがはっきり分かった。29分に長谷川が中に切れ込んできた時も、中に向かってドリブルする長谷川に対するチェックが遅れた。
前半の45分間、日本が一方的な攻勢を続けたが、得点には至らなかった。しかし、ハーフタイムに引き揚げて来る韓国選手の表情は、完全に戦闘意欲を失っているように見えた。
後半に入ると、いつものように韓国の動きがさらに悪くなり、59分に左から吉田がセンタリング。これをカズが一度はミスしたものの、長谷川に当たったボールはもう一度、カズのところに戻ってきた。これをカズが決めて先制。ゴール自体はきれいなものとは言い難かったが、とにかく、韓国にはもう1点を追う気力はなかった。
韓国の「強さ」を封じた日本のショートパス。
日本は守備は完璧だったが、攻撃面ではまだ甘さも残っていた。たとえば、韓国のディフェンスの裏に大きなスペースがあったにもかかわらず、右サイドの長谷川が、そこを十分に利用できなかった。あるいは、韓国の右サイドにさらに大きなスペースがあったにもかかわらず、いつも左からの攻めが多い日本なのに、カズや中山が左を攻められなかった。
相手の守備のアナをついていこうという攻撃の意識と戦術眼があれば、2点以上取ってもっと楽に勝てたはずだ。
かつて、1980年代後半には、韓国はアジアのサッカー界に君臨していた。中東勢は'80年代前半のピークを過ぎ、辛うじて韓国に対抗できるのはサウジアラビアだけだった。韓国は、当時のアジアの水準より一段抜きん出たチームで、アジアの国が韓国に挑戦しても、どこも勝てなかった。いや、パスコースを韓国に完全に塞がれて、パスを出すこともできないような試合になってしまっていた。
それが今、韓国が日本のディフェンスの前に同じような状況に追い込まれている。力関係は完全に逆転してしまったのだ。韓国の特徴である1対1の争いでの肉体的強さも、日本のボールテクニックに翻弄されてしまった。ラモス、北澤、カズ、中山などがショートパスをポンポンと交換すると、韓国の選手が当たって行っても簡単にかわされてしまうのだ。日本のボールテクニックは、数年前から韓国選手を上回るようになってはいた。だが、これまでは韓国の強さが日本のテクニックを抑えていた。それが、今は逆に日本のテクニックが韓国の強さに勝つようになったのだ。