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<ナンバーW杯傑作選/'93年11月掲載> 「テクニックで強さを制しての勝利」 ~宿敵韓国を破りアジアの盟主へ!~
text by
後藤健生Takeo Goto
photograph bySports Graphic Number
posted2010/05/10 10:30
かつての力関係は完全に逆転した
日本が北朝鮮に勝った翌日、韓国はサウジアラビアと戦った。1点リードされたサウジアラビアが、後半のロスタイムに入ってから同点に追いついた瞬間、スタジアムではファンが乱入して大混乱となり、サウジアラビア全土も興奮の渦に巻き込まれた。一方、追いつかれた韓国は、まさに負けチームのような表情でスタジアムを引き揚げた。韓国はまたしても90分もたず、金浩監督も「集中力が続かなかった」ことを率直に認めた。
それでも、サウジアラビア戦は涼しかった分だけ韓国の出来は良かった。今大会の韓国は、いつも最後の20~30分に動きがガタッと落ちる。金浩監督は、試合後に必ず「コンディションが韓国と違い過ぎる」とグチをこぼし続けている。気候に対して適応できていないのだ。大会前に涼しいドイツで合宿をするなど、準備が悪かったのだろう。
その韓国が、ショッキングなサウジアラビア戦から中2日の休養で日本との戦いを迎えた。日本には3日間の休養日があった。しかも、朝から暑い一日となり、午後4時15分キックオフのこの試合、暑さが韓国を苦しめた。
日本は、北朝鮮との試合に続いて、左フルバックに勝矢寿延、トップに中山雅史を使った。そして、出場停止の森保一に替えて北澤豪を入れ、中盤は右に北澤、中央にラモス、左に吉田光範という布陣。
森保欠場も、あらゆる面で日本有利な状況が揃った。
勝矢は北朝鮮のキム・ガンミンに対しては完勝したが、韓国がスピードのある盧廷潤や河錫舟あるいは金鋳城あたりを右に使ってくると、スピードで突破される不安があった。しかし、韓国は盧廷潤と河錫舟を中央に、金鋳城を左で使ってきた。さらに、ウィングバックの金判根が前の試合で負傷して使えなくなり、韓国は本来フォワードである高正云が慣れない右のバックのポジションに入った。これで、日本の左サイドの不安はなくなった。
中盤では中央のラモスが下がり目でプレーしたため、韓国の守備的ハーフの辛弘基が前に引っ張り出されてしまった。韓国は辛弘基とディフェンスラインとの間にもともと大きなスペースがあり、そこはスイーパーの洪明甫がラインの前に飛び出してカバーするシステムだったのだが、洪明甫が90分を通して完全にカバーし続けるというのは、ちょっと不可能だった。辛弘基が引っ張り出されたため、その問題のスペースが、さらに大きく開いてしまったのだ。
さらに、中山とカズがトップで大きく動き回るため、マンツーマンでついているストッパーの朴正倍と鄭鐘先が引っ張られ、ラインの裏にも大きなスペースができてしまった。
森保の出場停止はあったものの、あらゆる面で日本にとって有利な状況がそろった。
開始5分に崔文植のロングパスを追って盧廷潤がスピードを生かして走り込み、韓国がまずチャンスをつかんだが、キーパーの松永が盧廷潤と激突しながら抑えた。そして、韓国のビッグチャンスは、90分間を通じてじつにこの1回だけだった。
その後は、日本の中盤でのプレッシャーにあって、韓国はほとんどパスのコースを塞がれ、ディフェンスが後ろでパスを回すだけになり、日本のサポーターのブーイングを浴びて仕方なく蹴り込むロングパスは日本に簡単に拾われてしまう。韓国が最初から引き分け狙いだったのかどうか、それはわからないが、少なくとも開始20分も経つと、韓国が積極的に攻める場面はなくなっていった。