スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
モイヤーの快挙と高齢大リーガー。
~史上最年長記録が破られる日~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2012/04/22 08:02
17日、パドレス戦に先発し、7回を6安打2失点(自責点0)に抑え、最年長勝利記録を80年ぶりに塗り替えた。
ダルビッシュ有が苦しんでいる。大リーグの使用球が彼の短い指に馴染まないのではないかという懸念は開幕前からあったのだが、ここまで打たれるのは意外だった。表情にも迷いが見える。あやふやというか上の空というか、感情の焦点を合わせる場所がよくわかっていない顔だ。落ち着きを取り戻すまでには少し時間がかかるかもしれない。
その一方で、ダルビッシュの生まれた年にデビューした老投手が勝ち星を挙げた。
2012年4月17日の夜、ロッキーズのジェイミー・モイヤーが、パドレスを相手に勝利投手となったのだ。
1962年11月18日生まれのモイヤーは、現役最年長投手だ。それどころか、この勝利で彼は野球史に名を刻んだ。
49歳+150日での勝利投手は史上最年長である。これまでは、1932年9月13日にジャック・クイン(当時ブルックリン・ドジャース)がカーディナルス相手に挙げた49歳+70日の勝利が大リーグ記録だった。
打者心理を逆手に取るモイヤーには、剛速球など必要ない。
イチローのチームメイトだった時期も長いので、モイヤーの顔は日本でもよく知られている。もともと知的な風貌だが、ユニフォームを脱いだときの最近の顔は、あまり野球選手には見えない。髪には白いものが目立つし、鼻にかけた老眼鏡もけっこう似合っている。
モイヤーの武器は120キロ台の直球と、やはり全然速くないカッターだ。この2種類を巧妙に使い分けて、彼は打者の打ち気をかわしていく。この夜も、パドレスの打者はいなされつづけたようだ。なにしろ、モイヤーがデビューした1986年以降に生まれた選手がこのチームには6人も混じっている。こんなおやじに、と思ったかどうかはわからないが、ゆるい球でもてあそばれると、若い打者はカッとなることが珍しくない。
前にも申し上げたが、現在、大リーガーのピークは26歳から29歳の間といってよい。ジャスティン・ヴァーランダーもティム・リンスカムもマット・ケンプもライアン・ブラウンも、有力選手の多くはこの年齢層に属している。が、例外も少なくない。ざっと見渡しただけでも、40歳以上の現役大リーガーは、最古参のモイヤーをふくめて十指にのぼる。